サクタン
昔から、手の届かないものにしか惹かれなかった。
手に入りそうになったらそれは途端に魅力を失うのだ。
「…堺っ、もっと…お、奥ッ」
手に入りそうになると、望みすぎていた妄想から醒める。
「堺」
「堺ッ!」
僅か三割の理性は嘆いていた。セックスしても吹っ飛ばない三割ぽっちが空虚感だけを煽りだして噎せ返りそうになる。
内臓の粘膜に残る性器の感触と微熱が無性に愛おしい。何故こんなに悲しいのか。
「正直お前が分かんねえ」
気怠い下半身は動かす気になれなかった。
「は?」
「分かんねえっつったんだよ」
堺は袖口のボタンを留める。
「なに言ってんのお前」
「辛いとか、有るだろそういうの」
堺の背中だけをぼうっと見つめた。突き出た肩甲骨が魅力的だった。
「何それ」
「なあ、何であんな顔すんだよ」
こんなに必死になることねーじゃん。
「…」
多分堺は俺の手には入らない。彼はいずれ誰か別の人のものになってしまうと思う。
「…嘘付け」
「あのさ」
これでいい。
「全部知らなきゃ気が済まないわけ?それってお前の我が儘だよ」
堺のような奴の言う幸せの定義は年月と共に当たり前のように積み重ね、そして失われることの無い何かを築き上げることなのだと思う。
「何だよそれ、わけわかんねえ」
起き上がってシャツのボタンを掛けた。
「自分の一部みたいにされる方が辛いよ」
彼は理解出来ないだろうと思う。それでいいのだ。叶わない物を追うのが自分の幸せなのだから。