ガミタン
理由を探すなど無謀過ぎた。幾ら挙げようと落ち着けず、ましてやキリが無い。
上手くいかねえもんだよ、
気付けば誰かの物になっていた日常、指しゃぶりを止める前から諦められた。
ただ少しマスターベーションに没頭出来ないぐらいで。
新調したハンドクリームの匂いが気に入らない。どことなく香水臭い、それがいい匂い過ぎて居心地が悪いのだ。
「やっぱいつものやつ買っとけば良かったわ」
「匂いくらい別に良いじゃん。」
「嗅覚って人間の感覚器官の中で最もデリケートなんスよ、知ってた?」
「牛乳と白米一緒に食えるし」
「それは味覚。便所で飯は食えないっしょ」
「めんどくせえ、それこそ便所行ってついでに手洗って来いよ」
ハンドソープの清潔な匂いがこの洒落た匂いを打ち消してくれることを望んだ。
「で、どうよ」
「消えねえなあ」
「必死すぎ」
「じゃあ好き?この匂い」
手を差し出すと素直にその手に鼻を当てた。
「随分と洒落てますこと」
「でしょ?」
差し出したまま引けないでいる手を握ったり緩めたりしてみた。それを彼は掴んで引き寄せた。
「舐めたげるよ」
少しひび割れた指の第二関節、指と指の間、付け根、熱く湿った舌の這う感覚が興奮を煽った。
「好きだねえ、」
指をくわえるのを確認してからその口腔内に指を押し込んだ。
本人は「調子に乗りやがって」とでも言いたげな表情だったのですんませんとだけ言って笑った。
激しく動かして見るとやはり舌を巻きつけて来た。それを抜き差しするように前後に動かすと口許から唾液が漏れた。
「うわエロい」
そのまま引き抜くと唾液が一本糸を引いた。
「おい、セックスならしねえぞ石神」
「指フェラで我慢しますー」
「で、どうなの?」
「何かどうでも良くなった」
「あ、そ」
唾液の乾かぬ己の指をまた口に含んでみた。
「間接キッスー」
「それ流石に汚ねえ」
上手く行かないもんだよ、
そして一度きりしか使わなかったハンドクリームが捨てられないでいるのである。