何というか、暇だった。
あれから一週間。紫優も何だかんだ言いながらもとても真面目なおかつ有能な補佐として働いてるようだし(話は全て閻魔様から聞いている)、私も鬼灯様に口説かれたりする以外特に問題なく地獄ライフを満喫している。
というか毎日仕事もせず周りの人の軽い手伝いとか家事とかしかしてない気がする。…あれ、これってニー……出かかった単語は脳内で速攻リセットした。

そして現在、仮住居として住まわせて貰っている我が家には、鬼灯様が来ている。鬼灯様の訪問…別名口説きタイムは最近の日課となってきているので、もう誰も何も言わないのだ。…訂正しよう。紫優しか、何も言わない。紫優は鬼灯様が来ると、どうやって察知するのかすぐテレポートして鬼灯様を家から追い出そうとする。その手腕は見事なものだと思う。
しかし今こうして洗濯物をたたむ私と二人きりの、しかも肩が付きそうなくらい近くにいる鬼灯様を誰も止めないのは、今現在みんなが出掛けているから。
というのも、紫優は今仕事でお使いに出ているし、他のメンバーは閻魔様に呼ばれてるだかで出掛けている。…なので、この、いきなり私の手を握る彼を止める人は誰もいないのだ。…とか余裕そうにしてるけど、前世で彼氏がいて色々経験しているも、男性、しかもイケメンにここまで好意を全面に出された事のない私は内心ビクビクしてますよ、ええ。誰かたすけてー!




「…あの、鬼灯様…?」



「何でしょう」



「いや、あの、手…」



「ああ…可愛らしいのでつい握ってしまいました」




…キャラちがくね?
そういうニュアンスの事を言うキャラなのは神獣の癖に欲に塗れてるあの人じゃないかな、なんて内心で突っ込んでみる。だって、鬼灯様ってこう、もっとストイックで…いや、鬼灯様の好きな女性に対する対応なんて見た事無いし知らないけど、色々と違う気がする…!





「あ、あの…離して貰えますか?」



「おや…照れていますか?」




誰だってイケメンに手を握られたら照れるし緊張すると思うのだが。もし相手が憧れの人とかアイドルとかだったらそんな事は無いのかもしれない。だけど、それが自分に全力で好意を向けて来る人の場合は別だ。それに、日本人は熱烈なアピールには不慣れなもの。
この空気をどうにかしようと、私は必死に頭を働かせた。何か話題、話題を…




「あの…そういえば、ひー達遅いですね。閻魔様からの呼び出しで時間がかかる事って、一体何なんでしょう?」



「おや、聞いてないのですか?」




苦し紛れとしか言いようがない話題転換にも付き合ってくれる、そこに彼の余裕を感じる。でも、何なんだろう…呼び出しの内容は私は一切聞いてないし、彼らも聞いてないはずだ。



「鬼灯様はご存知で?」



「ええ、寧ろ私が提案した事なので」




…鬼灯様が提案した事…?一体何だろうか。首を傾げていると、それを見て聞きたい事を察したのか、彼は何て事ないとでも言いたそうな顔で口を開いた。



「地獄での就職先のご案内です」



「え………」




「皆さんには是非、不喜処地獄で働いて頂こうかと思いまして」




その言葉を聞いた瞬間、私はその場から彼を連れてテレポートしていた。行き先は閻魔様が普段仕事をしている場所。
テレポート先にて困惑した顔の手持ちメンバーと、困った顔で地獄の仕事について説明する閻魔様を確認すると、私は大きく口を開いた。




「うちのメンバーの就職禁止です!!」





その後、私の必死の説得により提案者の鬼灯様も折れた。彼のスカウトの理由は、ム○ゴロウ王国の一員にしたかった、というもの。それだけならこの人だけなら仕方ないと動機についての納得は出来たが、それと、彼らが働き出したらアヤさんとの二人きりの時間が増えると思いまして、なんて理由も挙げられた時には色々な意味で勘弁してくれと頭を抱えてしまった。彼自身は、何時の間にか合流した紫優からの盛大なツッコミを受けていたけれど。



この日から、うちのメンバースカウト禁止令が出たのは言うまでもない。




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