かくかくしかじか…
そんな8文字で全てが説明出来たらどんなにいいかと毎回思う。時に疑惑の目で見られ、時には頭がおかしいのではないかと言われ、酷い時には攻撃された。ポケモンを見せて納得されればいいが、そんな生き物世界中を探せばいるんじゃないか?なんて世界観の場所に行った時には本当に苦労した。
…あれ、そういえばこの世界わりと地獄なのに俗っぽいというか、現代のネタ多いよね?初期のソフトバ○クとか、ミステリーハンターのお姉さんとか。もしかしたらポケモンあるんじゃないか?
…気付いたのは説明し終わった後でした。そしてシロは話に飽きたのか途中退室。犬だし仕方ないか。

しかし何だか鬼灯様の対応が、予想していたものと違う。実際初対面だしこちらには漫画の知識しかないから今までもあった実物と漫画のズレかと思うくらいで、どこが?と聞かれても困るのだけど。取り敢えずその説明内容をダイジェストするとこんな感じ。





「まず、自己紹介ですよね。私はアヤといいます」

「アヤさんですか…良いお名前ですね」

「あ、ありがとうございます」

「お幾つですか?」

「え…あ、そうですね…21までは数えていましたが、その後は何とも……」

「幼く見えますね」

「あはは…よく言われます…」

「しかしまあ、二十歳以上なら現世の法律上でも……」

「え?」

「いえ、何でもありません」





「……とまあこういう訳で、異世界を旅してるんですよ」

「なるほど…。まあ先ほどのファンタジーな力を見れば信じるしか無くなりますね。CGではないようですし」

「ありがとうございます」

「…それにしてもコブ付きですか…いや、まあ問題は無い、か…?」

「は…?」

「いえ、お気になさらず」





「……なので、もしかして地獄にこちらの世界のものが紛れ込んでしまっているかもしれないんです。最近何かそういう噂はありませんか?」

「…そういえば、悲苦吼処の方でしょっちゅう地震があると管理している者が言っていたような…」

「あ、多分それです!…申し訳ありませんが、そこへ案内などは…」

「ああ、すみませんがそこは管理の獄卒以外の侵入は禁じられてまして」

「あの、そこを何とか…」

「そうですね…では取り敢えず、閻魔大王に聞いてみますか」

「すみません、よろしくお願いします」

「…そういえば、その問題が解決しなければアヤさんは帰れないんですよね?」

「ええ、まあ……」

「……なるほど…」

「それがどうかしましたか…?」

「こちらの話です」

「はあ…」







……これ以外にも所々?マークを浮かべざるを得ない台詞があって、最終的には聞き返す時にオタマロのような顔をしてしまった。
何だろうな…この人は言い淀むなんて事は滅多にせず、常にズバッと言いたい事は言う、それでいてよく言葉の剣で相手を突き刺してるイメージだったが…。しかし話を聞いていながらもほぼ表情が変わらなかったのはイメージ通りだったような気がする。
それにしても、きちんと話を聞いて貰えてよかった。金棒がフルスイングされたり飛んで来たりする事も無く無事に説明出来、とても安心した……あれ?何だかボールがガタガタ揺れてる。これ、紫優のだよね…どうしたのだろうか。



「……という事で、閻魔大王にはそう報告させて貰いますが…いいですか?」

「え、あ、はい!」



いけない、相手が喋っているというのにぼーっとしてしまった。これは安全な場所に来たという安心感か…気を抜き過ぎているかもしれない、気を付けよう。きゅう、と手を堅く握り、意識をそちらに戻す。
とはいえ、仕事の出来る彼の事だ。大王に私の立場を説明する言葉を纏めてくれたうえ、今後どうしたらいいか聞いてくれるんだろう。こういう人がいるだけで随分と助かるものだ。
感謝の気持ちを感じながら不意に彼の顔をじっと見れば…なぜか珍しく、驚いたような表情を見せていた。切れ長の目が真ん丸に見開かれている。………え?




「………本当に、いいんですね?」

「ええ…」




原作で見た事がない、本当に驚いた!という顔。…どうしたのだろうか、私は何かしてしまったのか…?
疑問を持ちながらも相手を見続ければ、では行きましょうか、と歩き出した。慌ててその後を追い隣に並べば、なぜかその細長く綺麗な手が私の手を掴んだ。
これは……今までと同じ、子供扱いされているのだろうか。見た目が幼いだけで中身は二十歳越えだと言ったのに。それに魂なら数えたくないほどの歳だと…いや、これはやめとこう。
それにしてもやっぱりこの鬼灯様の性格はどこかズレているようだ。幼い子供相手でもこの人ならこんな対応しないだろうし…実際、賽の河原では子供に対してそんなに甘くはなかったはずだ。これでも甘い方ですよ、なんて言いながら子供の鼻の穴に容赦無く指を刺していた気がする。…何でこんな事まで覚えているのだろう、私は。



「…そういえば、アヤさんは…」




そんな事しなくてもはぐれませんよ大丈夫ですよ。
そんな私の心の声は、彼に話し掛けられた事によって口に出されずに終わった。なぜか先ほどから変わらず紫優のボールが絶えず揺れている。今にも飛び出しそうなそれを疑問を持ちながらも何とかなだめ抑えつつ、私は鬼灯様と話しながらゆっくりと閻魔大王の元へと向かった。





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