いつもタマゴのなかできいていたマスターのこえは、それはあかるくたのもしいものでした。
ゲンというマスターのルカリオがぼくのおやです。ぼくはタマゴのときにいまのマスターにもらわれてきました。そのときのことは、うっすらとしかおぼえてません。でも、うれしそうなマスターのこえと、どこかさびしそうなルカリオのマスターのこえがきこえてきました。(ぼくがほかのポケモンよりはやくタマゴのなかでじがをもてたのは、はどうのおかげだとあとできづきました)
それから、マスターのこえをききながらぼくはタマゴのなかでみじかいあいだたびをすることになったのです。

マスターはいっしょうけんめいでした。マスターのあいぼうのリザードのひよくも、ヒンバスのみさくらも、いっしょうけんめいでした。つよくなりたいといっていましたし、いっぱいバトルもしていました。
バトルのしじをするマスターとバトルをするにひきはかっこよくて、タマゴのなかからぼくもうまれたらかっこいいバトルをするんだとおもっていました。リザードでもひよくはつよかったし、ヒンバスでもみさくらはとてもどりょくしていたからです。でも、そのにひきをしじしているマスターはぼくのなかではいちばんつよくて、かっこよかったのです。

おかあさんだから、といっていました。マスターはおかあさんだから、つよくなきゃいけないらしいのです。だれのおかあさんなのかはわかりません。でも、おかあさんはつよくてかっこいいんだよって、マスターはタマゴのなかにいるぼくにはなしてきました。
マスターのはなしをきいてぼくはなっとくします。たしかにはどうがつかえるぼくのおやのルカリオはつよかったのです。だから、おなじようにふしぎなちからがつかえるだれかのおやのマスターはつよいのだとおもいました。




あるひのことです。マスターは、いつものようにいっぱいバトルをしていました。そして、エリートトレーナーとしょうぶをしました。
ぼくはいつものようにタマゴからマスターのこえをきいていたのですが、だんだんあれ?とおもいはじめました。マスターのこえが、いつもとちがうからです。




「頑張って緋翼、お願い!!」


[……くそっ……!]



いつもよりも、マスターはあせっていました。そして、いつもよりもひよくはいたそうでした。みさくらはひんしで、ボールのなかです。
マスターのいっぱいいっぱいなこえはつづきます。ひよくのつらそうなこえもつづきます。そして…



「決めるわよドダイドス!じしん!!」


「っ、ひよ…っ…!」


[ぐあああああああっ!]


「緋翼っ!!」




…マスターは、まけてしまいました。




ぼくはショックでした。マスターはいままでまけるなんてことなかったからです。つよくてかっこいいマスター、ひよくとみさくらがまけるなんて、しんじられませんでした。
マスターはすぐにポケモンセンターにいきました。こんかいはすこしじかんがかかります、とよくきくおんなのひとのこえがいいました。こんばんは、マスターとぼくだけのようです。


マスターはポケモンセンターのへやにはいると、すぐにぼくをカバンからだしました。いつもマスターはへやにくるとさいしょにぼくのタマゴをだして、どこかあたたかいところにおきます。
でも、きょうはちがいました。タマゴからそとはみえませんが、ぼくはいつもそとのようすはなんとなくわかります。マスターはぼくのタマゴを、ぎゅうっとだきしめました。かたいところにおかれたときとはちがう、ほんわかとあたたかいかんじがしました。
そして、ぽつりとあめがふってきました。さいしょはすこし、だんだんいっぱい。そのあめがマスターのなみだだときづくのは、マスターのこえがきこえてからでした。




「……っ、なに、やってんだろ、ね…。わたし、これじゃ、こんなんじゃだめ……なのにっ…!こんなん、じゃ、あの子に…会えな、っ…いやだ、っ…!ひーもっ…みさく、らもっ…こんなん、じゃ、きらわれちゃっ…!やだ、よっ…!」





こわいよ、ごめんなさい、やだよ…ひっくひっくとしゃくりあげながら、マスターはいっぱいいっぱいあやまっていました。それはいつものかっこいいマスターじゃなくて、つよいおかあさんでもありませんでした。
でも、ぼくはそれできづきました。かっこいいマスターは、いっぱいがんばってるからかっこいいんだって。マスターはつよいおかあさんなんじゃなくて、つよいおかあさんになりたいんです。ほんとうはいっぱいいっぱいで、でもかっこよくてつよいおかあさんになりたいから、がんばってるんです。
きっと、ひよくとみさくらのまえでもずっとかっこいいマスターは、タマゴのぼくのまえでしかかっこわるいマスターになれなかったんです。

ぼくはマスターからふるあめも、マスターのかなしいこえもなんだかいやでした。だから、がんばってうごいてみることにしました。


マスター、なかないで。



でもマスターはきづかないで、ずっとごめんなさい、といいつづけました。ぼくはタマゴだからなにもできません。マスターのなみだも、かなしそうなこえもいやでしたが、なにもできないのがいちばんいやでした。

だからぼくは、きめました。
ぼくがうまれたら、バトルもいっぱいして、いっぱいかてるようにつよくなろうと。そして、マスターがないててもすぐにえがおになれるように、ほんとうにつよいポケモンになろうと。ぼくはきめました。




そして、マスターはもっと強くなるためにイッシュちほうへ向かいました。そのとちゅうでぼくは生まれ、それからいっぱいしゅぎょうしたので、レベルが上がりました。べんきょうもしたので、少しずつわかることがふえてきました。
ひよくはリザードからリザードンに。みさくらはヒンバスからミロカロスに進化し、前よりももっと強くなりました。にひきに負けないようにぼくもしゅぎょうをたくさんがんばりました。
でも、マスターをささえられる心の強さは、どうやって手にしたらいいかわかりませんでした。

とうとうイッシュちほうにつきました。さいしょに行ったのはライモンシティというところです。ライモンシティは、今まで見たどんなまちよりも、色んなものがありました。
いつもどおりポケモンセンターに行きへやをとります。ぼくはマスターがかたづけたりするのをてつだってから、テレビを見ました。テレビはべんきょうになるので、たまに見せてもらいます。
テレビには、青いかみの男の人がうつっていました。めずらしいふくに、こしに何かをもっていました。刀って言うんだよ、とマスターがおしえてくれました。





「あの方をお守り出来るなら…拙者は命など惜しくはない!!」






青いかみの人は、じぶんのマスターをまもるのにいっしょうけんめいでした。どんな強いてきとたたかっても、ボロボロになっても立ち上がりました。時には人間なのにポケモンとたたかったりもしました。
ぼくは青いかみの人から目がはなせませんでした。ドキドキとむねがなりました。生まれてはじめてのかんかくです。




「貴様っ…なぜそこまでして闘う!?」


「拙者はただ、あの方が笑顔が見たいだけよ!故に刃を振るう!…貴様は確かに強い。ただ、貴様の刀は目的無く振るわれている。そんな魂の入らぬ刃では……拙者は倒せん!!あああああああああああ!!!」


「なにいっ!?」


「ああああああああああああああああ!!!!」


「っ、ぐあああああああああああ!!!」





青いかみの人は、じぶんよりもずっと強い人に勝ちました。そしてさいごに女の人のえがおを見て、うれしそうにわらいます。
ぼくのあたまからは、青いかみの人のことばがはなれません。
確かに、青いかみの人はとちゅう負けたりしました。でも、ぜったいにあきらめない強さ、そして何より心の強さがありました。それにぼくは、あこがれたのです。
ああいうふうになりたい。マスターがえがおでいられるような、強い心がほしい。




ーその日から「ぼく」は「拙者」に変わり、
「マスター」は「主殿」に変わりました。










あれから拙者は、ルカリオへと進化致しました。主殿は拙者達の前では弱味を見せようとはせず、やはりあの時感じた事は正しかったのだと実感しております。
しかし、拙者は…否、同じ想いを抱える拙者達は待ち続け、そして強くなろうとするのです。いつか主殿が弱さを露わにして下さった時支えられるように。主を笑顔に出来るように。


全ての刃は、主殿の笑顔の為に。










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