例えば、なんとなく。なんとなく自分はここにいるべきではないと思うことはないだろうか。俺はむれにいても常にそう考えていた。
べつに色がちがうわけでもないし、俺だけなにかあるわけじゃない。それでも、なぜかそこは俺のいばしょじゃなかった。
だからむれから外れてた俺はつかまえやすかったんだろう、きづいたらだれかにつかまっていた。


「初心者トレーナーの初めての手持ちポケモンになって欲しいんじゃ」




白いかみのやつはそう言った。それからしばらくは白いかみのやつの家にいることになった。トレーナーとやらのてもちになるには、この家にいるやつらの中でも人なつっこいやつらしい。
ここから出たいと言っていたやつは白いかみのやつと、それと同じふくのやつらによくあいそをふりまいていた。

ここも、ちがう。


俺のいばしょはここでもない。それはよくわかる。でも、ここのヒトカゲたちみたいにあいそはふりまけない。ようするに、俺がまずあのトレーナーからえらばれる三びきの中にまじる事もない。
…俺はずっとここにいるのだろうか?
なにかがちがうばしょで、仲間もなく、ずっと…ずっと…?

考えて、初めてゾッとした。



それからあらためてまわりを見てみる。
ああ、ちがう。俺はこいつらとちがう。何がちがうのだろう、わからないけどちがう。俺は、ヒトカゲだけどここにいるヒトカゲたちとはちがう。なら、何だ。俺はヒトカゲなのに他のヒトカゲとなぜ同じになれない。俺はフシギダネじゃない。ゼニガメじゃない。ヒトカゲなのに。ヒトカゲなのに……

………同じじゃなきゃ、むれのヒトカゲにもトレーナーのヒトカゲにもなれないなら。
俺は、ひとりぼっちじゃないか。





それから俺は、さらにこどくになった。仲間なんていない、ひとりぼっちのヒトカゲ。何にも仲間いしきがもてず、どこにもいばしょがないヒトカゲ。…ことばにすると何だか笑ってしまいそうになるはなしだ。でも、俺はなによりそれがこわかった。一人ぼっち、いばしょがない、世界中で一人。それがこわくてたまらなかった。でも、と心のふかいばしょで異を唱える俺。でも、もしかしたら俺と同じやつがいるかもしれない。俺と同じ、一人ぼっちで、いばしょがなくて、なによりもこわいやつが。
俺はそう、どこかに仲間がいるんじゃないかと思った。思いつづけた。そうでなければきっと、きょうふにおしつぶされてしまうから。
そして…ある時白いかみのやつーオーキドがつれてきた人間。そいつを見て、俺はそれを見つける。





「…はじめまして」


{お前、は…!}




そいつを見たしゅんかん、俺のからだにまるででんきのワザをくらったかのようなでんげきが走った。だって、目が同じなんだ。そいつは、今まであっただれよりも一人の目をしていた。こどくで、世界で一人ぼっちの、さびしい人間だった。笑っていたけど、だれよりも世界をこわがっていた。




{……お前は、一人か?}




かくしんにも似たしつもんに、それでもそいつは笑う。一人ぼっちをかくして。世界がこわいのをかくして。ふつうの人間の、ふりをして。



「…まだ、一人だよ」





…ああ、こいつだ。
俺は同じヒトカゲの中に仲間は見つけられなかったけど、人間の中に見つけられたのだ。こどくで、世界にいばしょがなくて、ふつうの人間じゃなくて…でも、仲間もいばしょもあきらめきれない、きぼうをすてられない、俺と同じ人間。




{……なあ、お前パートナーはいないのか?}


「……うん……」


{なら……俺がなってやるよ}






…なあ、むらさきのお前。
俺な、世界でひとりぼっちだと思ってたんだ。お前が来るまで、一人がこわくて世界がこわかった。同じじゃないことがこわかった。
でもな、お前とであえた。だから、だいじょうぶだ。同じヒトカゲじゃなくても、人間でも、俺と同じお前がいた。だからきっと、きっと。俺らみたいなやつは世界中をさがせばいるから。俺らは一人ぼっちじゃないから、だいじょうぶだ。





「……一緒に…来てくれるの…?」



{ああ…}



「っ……!ありがとう…!」






俺とちがうけど、同じお前。
こわくてしかたない、おくびょうもの。きずのなめあいと言われてもいい。俺とお前がいっしょにいれば、一人ぼっちじゃない、二人ぼっち。いばしょはおたがいのとなり。



それなら俺は、この世界もこわくない。





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