ぼーっと立っていた。ライモンシティのその一角に、私はただぼーっと立っていた。理由はちゃんとある、待ち合わせをしているのだ。昨日の夜突然あのビリビリ痺れちゃう美少女から連絡があり、明日買い物に行かないかと誘われた。特に予定も無かった私はそれを快諾し、そして現在その待ち合わせ場所。少し早く来すぎてしまったと、付近にある時計を見て溜め息を吐く。まあ遅くなるよりはいいかと自分を納得させ、ふと周囲を見渡すと…一人の女性が目に入った。 真っ黒の、それこそ腰まであるような髪に真っ赤な目。思わずその姿に目を奪われてしまった。真っ黒の中の赤、ならばそれはゼクロムか。…いや、金色の部分は無いにしろブラッキーかもしれない。雰囲気はムウマージだなあ…でもやっぱり色合いからしてブラッキーだろうか。 私からしたらどこかポケモンのように見えて仕方ない彼女をじっくりと観察してしまった。ポケモンのように…なんて、私が言ったら可笑しいのかもしれないけど。 「なにかご用ですか」 急に声をかけられ、軽く肩が跳ねてしまった。そちらから見えない場所で見つめていたはずなのに…彼女は気配に鋭いのだろうか?少し驚きながらも笑みを浮かべる。ジロジロ見てしまったのはこちら、悪かったのもこちらだ。 ごめんなさい、軽く謝りながら近付き彼女の正面に立つと、意外とその子が幼い事に気付いた。近くで見ると、ってやつだ。遠目で見た雰囲気はどこか大人っぽかったのに、見た目は結構幼い。私と同じ童顔な人種だろうか?と勝手に少し失礼な判断をする。そして、何となく彼女はどこか違う気がした。どこが、って言われたら説明出来ないのだけども。 彼女も彼女で私の姿を見て少し驚いたようなリアクションを見せた。確かにこの髪色にこの目は余り見ないものだから仕方ないのかもしれないけど。ぐるぐると思考を巡らせながらなるべく優しく聞こえるよう心掛けながらも声を発する。 「何だか貴女がブラッキーに見えてしまったから、つい」 何で見てたの?と聞かれないうちに先手とばかりに理由を話す。正直に思った事を言っただけだ。 言えば彼女は、面食らったような顔をした。 「…そんな事を言われたのは、初めてです」 まあ、確かに初対面で人をポケモンに例える事は余りしないだろう。前にミニスカート同士の、○○ちゃんって目まん丸でプリンみたいだよねー、あ、わかる似てるー!みたいな会話は聞いた事があるが、この子も私もそんなきゃぴきゃぴした性格じゃなさそうだし。…きゃぴきゃぴってもしや死語だろうか。 そんな事はどうでもいいと思考を切り替え、また笑う。 「なんかごめんなさい。ああそうだ、あなた辛いものは?」 「大丈夫ですが…」 「じゃあ、はいこれ。お近付きの印に。このクッキーね、最近ライモン名物としてビリビリ舌にくる激辛あ、じ…」 お詫びに何かないかと考え、そういえばこれがあったと思い付いたのは、最近ノボリさんがハマってるらしくオススメなので是非食べて見て下さいまし、なんて言いながら大量に渡してきたクッキー。実際美味しかったのでお裾分けしようとそれを取り出し、渡す為彼女の手に触れた瞬間…空気が変わった。 そのお菓子のパッケージを見て思い切り目を見開く彼女。そして揺れる彼女の腰にあるボール。ボールの中から微かに聞こえて来たのは、戸惑いや困惑の声だった。 はて、どうしたものか。このお菓子に何か思い入れでもあるのか、あるいは…彼女が、何か違う理由と関連しているのか。更に彼女を見ていると、やっぱり違う…と小さな呟きが聞こえた。何が違うの、そう聞き返したいところをぐっと我慢する。彼女の目に私はいるようでいないから。きっと、聞いても教えてくれないだろうな、なんて。あの目は…そうだ、紫優に似ている。 「きっと、ポケモンの戯れだと思うよ」 だから大丈夫じゃない?と。独り言のように言えば、視線は自然にこちらに。彼女よりも遥かに私の方が不思議現象に遭遇しているのだ。何か違うのならばきっとそれは、と想像がつくくらいには色々と。第一、それを言えば私自身が不思議の塊だ。 「ありがとう」 ぼんやりと自分達の横を歩く人々に目をやれば、隣から聞こえた言葉。それに少し頬を緩めていると、突然風が吹いてきた。ポケモンのかぜおこしよりも強いそれに思わず腕で顔をガードする。草木が揺らし音を立てる突風に、周囲の人達から軽い悲鳴が漏れる。 そして…数秒経っただろうか。悲鳴もどこか遠くなり、やっと収まった風に目を開くと… 真っ黒な髪も、真っ赤な目も、周りにはどこにもいなかった。 「……帰ったの、かな……」 確信はないが、彼女はここから完全にいなくなった気がした。 それに対してふ、と笑えば前方から視線を集めながら歩いて来る金髪の友人。もうそんな時間かと驚きつつ手を振ってそれに合図すれば、こちらに小走りで近付いて来る。その表情は、どこか曇り気味。 「…もう最悪!さっきの風で髪がぐしゃぐしゃになっちゃった!…って、アヤ、酷い事になってるわよ!?」 「え、うそ」 「嘘じゃないわよ、かして!」 言われた通り無抵抗に頭上の手を受け入れれば、器用に動くそれ。度々自分でヘアアレンジをする彼女からしたらくしゃくしゃになった髪を直すなんて簡単なんだろう、すぐに細い手は離れていった。 「これでオッケー。さ、行きましょ!」 「うん」 元気いっぱいに歩き出した彼女に、こちらも笑顔で頷き歩く。そういえばさっきね、と私は話を切り出した。そして彼女の特徴や不思議だった点を挙げるうち、私は自分の気持ちに気付く。ただ漠然とした、その気持ちに。 …もしも。もしもまたポケモンの戯れがあるならば。 「また会いたいなあ…」 ブラッキーに似た、あの子と。 *────── みや様、リクエスト、そして相互リンクありがとうございました! 他所の家の子を書くというのはこれまた初めてだったので、何だか楽しみながらも凄く考えながら書かせて頂きました。あ、ブラッキーというのは私のイメージです。黒に赤目と言われて最初に思い付いたのはゼクロム、そして次にブラッキーでした。そして可愛らしさとイメージ優先でブラッキーに(笑) あと、夢主ちゃんが謎に包まれていたので余り台詞が書けなかったのもまた事実です。もうちょっとお喋りさせたかったなー、なんて。というか、元々のサイト以外の連絡手段がなければ絶対にあの情報量では書けなげふん← そしてなんと、この話のみや様の夢主ちゃん視点をリンク記念に下さるようで、私今からとても楽しみにしております。そこでこの(私の文章力不足による)不思議な話の謎が解明されるかも!?凄く凄く楽しみです。 今回はリクエスト本当にありがとうございました! そして、これからよろしくお願い致します! *この小説はみや様のみお持ち帰り頂けます |