いらっしゃいませこんにちはー。
今日も元気よく愛想良く。トレーナーのみなさんが気持ち良く買い物出来るように。俺はフレンドリーショップのお兄さん、どんなお客様相手でも笑顔が大事なのだ。



「ただ今きずぐすり安売りフェアやってます、いかがですかー!」


「いかがですかー!」



誰かが声かけしたら復唱、これ基本。短パン少年がその声につられてきずぐすりを買ってくれた。ありがとうございます、なんて営業スマイルで商品を手渡せば、少年はにっこりと笑いながら店を出た。そして透明の扉の外で相棒であろうポケモンをボールから出す。
…アーボ。にょろにょろと体をくねらせながら少年に付き添うその紫のポケモンは、俺の過去の記憶を思い返させるには充分だった。

俺は、昔、ロケット団にいた。
その時は自分がしている事は正しいと思っていたし、ポケモンを奪う事に対して罪悪感なんかなかった。奪われる方が悪い、弱い方が悪い。そう信じて疑わなかったのだ。
しかしある時俺は、とある少年のポケモンを奪おうとしてその子に大怪我をさせてしまった。腕から血を流し、大泣きしながらぼくのナゾノクサをかえして、と叫び続ける少年。そして、その腕を傷付けた俺のラッタの、悲しげな表情。それを見て初めて感じたもやもやが罪悪感だったんだろう。それから少しずつロケット団の行動に疑問を持ち始めた俺は、段々とその手段についていけなくなり、ロケット団をやめた。
そして寝る場所も無く彷徨ってた俺を助け、
職まで与えてくれたのがこのフレンドリーショップの元店長だ。元、というのは今現在この店の店長は俺だから。自分の恩人とも言える人の為に毎日一生懸命働き続けていたらそれを元店長に認められ、最近店長に任命されたのだ。元店長は歳をとっていて、働き続けるのは厳しいとの事で引退。俺がそれを引き継いだ。たまに様子を見に来てくれたりと、とても面倒見のいい元店長の為に今日もキビキビと…そうだ、キビキビと働かなくては。
客がいないのをいい事に完全に回想モードに入っていた自分の頭に、しっかりしろ、と命令を下す。不意にガラス越しに見えた客の影に、営業スマイルを貼り付け直す。しかし。





「いらっしゃ……え、」




入って来た人物を見た瞬間、俺の表情、挨拶は完全にフリーズした。
だって、なんで、え?


「?…どーも」






入って来たのは紫の髪と目を持つ幼女…いや、少女。
この特徴は、数ヶ月前ネット上で嫌というほど見たのだ。元同僚達にも嫌というほど聞かされたのだ。ていうか、お前、イッシュ地方だかに、いるはずで……なんでカントーのハナダにいるわけえええええええ!?
いや、いや、いや。
俺は悪い事はしていないし、面識も一切ない。堂々と、堂々としていればいいんだ。紫の悪魔ーそう呼ばれた少女でも、何もしていない人間にいきなり攻撃するという事もあるまい。大丈夫、大丈夫。




「ただ今きずぐすり安売りフェアやってます、いかがですかー!」



「いかがですかー!」





「センパイ、交代に来ました…ヒイッ!?」






裏口から来た後輩に思わず二度目のフリーズ。お前、タイミング、悪すぎ。
この後輩というのはフレンドリーショップの後輩というだけではない、昔ロケット団にいた時の後輩でもあるのだ。ロケット団が壊滅してから、路頭に迷っていた後輩。ただそれだけだったら知らんぷりしていただろう。でも、こいつは俺のようにロケット団の意向に戸惑っていた。俺はセンパイみたいに抜ける勇気ねーんすよ、とあの時苦く笑っていた。だから店長に頼み込んで働かせて貰ったし、しばらくの間自宅に住ませてやった。
ありがとうございます、涙を流しながら何度も元店長と俺に頭を下げていたこいつの姿は忘れられないし、現にあれから必死に働いている。他の店員にもその働きっぷりは評判だし、とても真面目なこいつを元ロケット団だと疑う人間はいない。
そう、真面目にやっている今は堂々と接客すればいいのだ。だけど、散々トラウマを植え付けられたこいつはそうは思えないようで…がっつりと俺の肩を掴むと、紫の悪魔を背にするよう思い切り後ろを向いた。




「せ、センパイ、ななな何でアイツいるんスか!?センパイ前イッシュにいるって…!」



「知らん…が、お前今は悪い事してねーんだから堂々としてろ」


「……そ、そーっスよね……」






後輩の狼狽っぷりからして、やっぱりこの子はあの悪魔なんだろう。どもり、なおかつ顔を青くする後輩に交代時間になっているパートさんが大丈夫?と声をかける。大丈夫っす、そう震える声で何とか返しそれでも素早く交代の作業を終えた後輩に心の中で拍手。そして紫の悪魔に視線を移す。何事も無く終わりますように、ていうか早く帰ってくれ!などと念じたから彼女のファン達から呪いでもかけられたのだろうか



「あの、すみません」





何で話し掛けて来るんだよおおおおおおお!?
はい、何でしょう?なんて既に引きつってるであろう営業スマイルで返答。確かに客が店員に用事があったら話しかけるのは普通なのだ。そう、いくらタイミングが合い過ぎているからといって変に勘繰るな。俺は、何も、やってない!




「あの、週間ポケモンスタイルってありますか?」


「そちらでしたら、明後日最新号が入荷致しますが…」


「そうですか…わかりました、ありがとうございます」





ほらな、普通の客としての質問だった!
なぜか心の中でガッツポーズしながら答える自分に、考え過ぎだと笑う。そうだ。何てったって、彼女と自分は顔を合わせた事も無いのだから。何を怖がる必要がある?
俺の当初の心配を他所に、紫の悪魔は普通に買い物している。ボールと回復アイテムをぽんぽんかごに詰め込み、残るはレジだけだ。




「……が一点、なんでもなおしが5点…合計、6520円でございます」


「はい」


「6520円丁度頂きます」





隣で未だに震える後輩には悪いが、俺はもう完全に安心し切っていた。この子、絶対に気付いてない。レシートはいかがなさいますか?と聞きながら、すでに普段の余裕を取り戻している。あとはこの子が店を出るだけ。楽勝だ。



「レシートはいいです。…あの、店員さん」



「はい?」





他に何かご用事でもございますか?お客様。いつも通りの、ロケット団にいたとは微塵も思わせない営業スマイルを向ける俺。いらない、と言われたレシートは廃棄する為に手の中だ。さて、どうしたのだろうかと彼女を見ると、ニイ、と。ニンマリとしか表現出来ない表現で笑った。


え?




「何もしてないし真面目にやってるみたいだからいいですけど…次に何かしたら容赦しませんからね、お二人さん?」






…………え?
フリーズする俺に対して、彼女は何も言わないまま背を向け、店を出て行く。
え、なんで、いつから、え…。ドサリ、右側から何かを落としたような音。お前ふざけんな商品落としてんじゃねえよ、しかもそれモンスターボールの在庫だろ使い物にならなくなったらどうしてくれる。後輩に対してそう注意しなきゃいけないと思うのに、混乱し過ぎて口が開かない。
うわあああああああアイツやっぱり悪魔だああああああああ!!!なんてそいつの雄叫びをどこな遠くに感じながら、俺はぼんやりと現実逃避を始めていた。


そうだ、帰ったら、スレ立てよう。







*──────

空様リクエスト、君色番外のフレンドリーショップのお兄さんが幼女と出会いてんぱる話でした!

何か勝手に後輩出したりお兄さんの過去書いたりやらかした感があります…リクエスト、こんなので宜しいのでしょうか…?(;´・ω・)
あ、なんで夢主がわかっちゃったのかと言うと、記憶していたからです。恨みつらみがあるので、以前闘った…特にロケット団の人間なら忘れないかと。覚えていたその後輩の態度と様子でお兄さんも芋づる式にばれました。要するに後輩が来なきゃバレなかったという(笑)

わざわざ番外からのリクエストありがとうございました。そこまで読んで頂いていると思うと嬉しくて仕方ありません…!
リクエストありがとうございました!

※この作品は空様のみお持ち帰り頂けます



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