ー夢をみた。また、あの時のように体がエネルギーに満ちて両親を救える夢を。そして…緋色の、懐かしくも温かな炎に包まれる夢を。その炎を手離したくなくて必死にしがみ付く。行かないで…伝えたいのに喉がカスカスと鳴るだけで声にならない。伝わって、どうかお願いだから…!心の中で叫んだ瞬間、緋色は確かに笑った。優しく、柔らかく。

「今度は絶対に離さない」

ーああ、大丈夫だ。彼が約束を破った事は無かった。だから、絶対に今度も。

…ゆっくりと目を開くと、まず緑の瞳が見えた。そしてその次に、燃えるような緋色の髪
。長い髪を揺らし、彼は私をじっと見つめる。そして…



「……久々だな、アヤ」



…泣きそうな顔で、微笑んだ。






「……久しぶり、ひー」




呼んで改めて感じる彼とまた会えたという実感。その呼称に、そして彼の声の懐かしさに、心が温かくなった。ああ、全然変わってない。思わず抱き締めようと腕を伸ばし、その状態でフリーズ。まてよ、と頭の中で何かが私に囁いているのだ。
伸ばした手をじっと見つめる。急に倒れ今まで寝ていたはずなのに、体はぽかぽかと温かかった。心だけじゃない、物理的に温かいのだ。その何処か懐かしい感覚に眉を寄せる。それに、私が急に倒れた理由がまだわかっていない。私の体に何が起きたと言うのだろう。
首を傾げていると、昔のように総てを見通しているような緑の瞳と目が合った。



「俺と自分の体をよーく見てみろよアヤ。昔と同じ、よーくだ」




…昔と、同じ。それは、今は出来るはずのない事。あの世界でとある師匠に教わったあの能力。そんなまさか、と思いながらも私は言われた通りによく見てみる事にした。何よりも自分の相棒はこんなくだらない事で嘘を吐くような性格ではないから。じっと、目を凝らす。そう…あの世界では何度も行った今ではすっかり懐かしくなってしまった作業、凝だ。
…目にオーラを集める感覚。目が温くなりエネルギーが巡る感覚。一度体に叩き込まれた事は転成しても中々忘れられないらしい、私の体は直ぐにその作業を行った。…そして。



「み……える……」



緋翼のあの赤いオーラが。そして自分の紫のオーラが見えるのだ。…一体どうして、と更なる疑問を浮かべていると、また緋翼が口を開く。本当に私の考えは全て見破られてしまっているみたいだ。



「何故かはわからないが、俺と出会ったのがきっかけだったんだろ。急にアヤのオーラが噴き出してみるみる内に体に収まったんだよ」



それは全て私が気を失っている時の出来事だったという。最初オーラを溢れさせた私に緋翼は凄く焦ったのだとか。当たり前だ、オーラが底をついたら死んでしまうから。緋翼の話を聞きながらオーラを纏った手を握ったり開いたりしてみる…が、ある事実に気付いて私はゆっくりとオーラを一般人のそれと同じくらいの量に変えた。



「ん……どうした?急に隠なんかして」



「だって………」




此処にはバイオハザードの黒幕である彼が居る、と言おうとして…やっと、驚きの余り動いていなかった私の頭が働き出した。
緋翼はクリス達と歩いていた。しかもよく見てみれば彼の纏っている服にはS.T.A.R.Sの文字。そして今自分が寝ている場所は…何処か、見覚えがあった。これによって緋翼が今どんな仕事をしているかが一気に理解出来、更にどう説明したものかと考え事が増える。もし緋翼から聞かされているのならば無駄な抵抗になってしまうかもしれないけど、それでも彼の性格からして誰にも話していない可能性は大いにある。念能力をウェスカーに知られてしまったら面倒どころじゃない。だって、この力は………



「…………そうだ」





この力があれば、この力さえ昔のように使えれば、私は助けられる。この歳まで育ててくれた、この世界の父と母を。
体力は今からどうにかしよう。この体は運動神経は悪くないしどうにでもなるはずだ。そうだ、この力は切り札になる。全てから逃げ救う切り札に。
その瞬間、私は絶望の中に大きな光が見えた気がした。今まで自分の無力を嘆いてた私が、これからは以前のように何でも出来る、そんな気がした。




「………ひー……」



喜びからか震える声でその愛称を呼ぶと、さっきから急に表情を変えた私を心配そうに見ていた彼はどうした?と一言返した。
緋翼は私がさっき思い出す前から念が使えるようになっていた様子だった。つまり、彼こそが長いブランクがある私にとっての師匠となる存在だ。この世界にはきっと、彼しかいない。そんな確信が、なぜか私の中にはあった。

ぐっと手を握り締め、彼の目を見つめる。



「……話が、したいの。いっぱい、いっぱい話さなきゃいけない事がある。……それがもし、信じられないような内容でも、ひーは……」




ごくり。カラカラと渇いた喉で何とか唾を一つ飲み込む。将来敵のトップとなるはずのアルバート・ウェスカーはとても人望が厚い男。ストイックで、主人公であるクリスが…いや、S.T.A.R.Sのメンバー全員が信頼を寄せているはずだ。緋翼は今、そのメンバーの一人。………もし、信じて貰えなかったら。

唾が喉に引っかかる痛みを感じながらもう一度ゴクリと飲み込む。そして……



「………………私を、信じてくれる…?」





先程とは違う、緊張で震えた声。私の言葉に彼は一瞬目を見開いて…………そして、笑った。




「当たり前だ、相棒」




「っ………ありがとう……!」




その言葉、その笑顔に私はあの時に帰れた気がして、涙が零れた。

















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