…あり得ない、っていうのはわかってて。それでも少しの希望に望みをかけるしかなくて。そう簡単に諦めてたまるか、なんて決意したものの、そりゃあヘコむ時だってある。…例えば、今。目の前で美味そうにケーキを頬張るアヤを見て、デートだって思ってんのは俺だけなんだろうな、とか考えると…若干ヘコんでくる。



「…流石キルア、美味しい所知ってるね」



それでもこれはデートだ。誰が何と言おうと、相手が認めてなかろうと。ガキみたいに駄々こねて呼び捨てにさせて、更に美味しい知ってるからと半ば無理矢理ここに連れて来てたとしてもデートなんだ。現に相手はケーキを頬張って笑ってる。ならば、それでいい。



「…キルア?どうしたの?」


「…え、あ、なんでもない」


「そう?」



…いけね、ぼーっとしてた。せっかくのデートなのにこんなんじゃ駄目だよな。色々と話したりしなきゃ…少し癪だけど、レオリオの言葉を借りるなら女性を楽しませなきゃいけない、らしいし。
誤魔化すように大きくケーキを頬張って、話し掛けようとアヤの顔を見る。途端に目が合って、心臓が跳ねた。美味いはずなのに何故か味のしないケーキを、もう一口。…くそ、カッコ悪い…。



「…キルア」



不意に名前を呼ばれたから驚いた。その声につられてアヤの顔を見れば、どこか微笑ましそうな笑み。そして、その手がこちらに近付いて来た。



「ちょ、なに……!?」


「しーっ、そのまま」



指は俺の頬へ。そして、何かを拭うような動きをしてから離れた。…チラリと見えた指先が汚れてた事から、クリームが頬に付いていた事がわかる。…何かしてんだ俺、と冷静に責める自分と心臓をバクバク鳴らしながらまだ触れてるように残る指先の感覚を覚える自分もいて。若干の混乱状態に頬が赤くなるのがわかった。



「いきなりごめんね、キルア気付いてなさそうだったから」



苦笑と共に、舐め取られる指。申し訳なさそうに言うアヤに、子供扱いするなと注意する余裕も無い。




「おま、なに………!」


「へ…?」



言葉にならないまま口を開く俺に、首を傾げるアヤ。更に赤くなる顔に、もう溜め息しか出なかった。…前途多難なこの恋、いつか気持ちが届く日が来るのだろうか。







- ナノ -