気付いたら念能力者が蔓延る世界で、ああここかマズイなと思っていたらジンさんに拾われて鍛えられた。そこからあれよあれよと仲間達も巻き込んで念能力者に。……なんて、ここまでは割とテンプレだと思う。
それから今置かれている状況…原作介入して主人公組と同じハンター試験を受けている、なんていうのもテンプレだ。だけど、私はそのテンプレの中で一つだけ、でもとっても大きく色々な事に影響するイレギュラーな事をしてしまったのだ。



「私に着いて来て下さい」




お髭が素敵なサトツさんの一次試験がスタートする中、私はじっとある少年を見つめていた。勿論、気付かれないようにしながら。
まだまだ身長は低いがしっかりと鍛えられた体、ツンツンとした黒髪に、意思が強そうな目。否が応でも彼を彷彿させる少年に、心の中は既に嵐だ。…ああもう、本当にどうしよう。
一人周りの受験者とは違った理由で狼狽え頭を抱える中、ふと感じるポケットの中の振動。ここに来るまでにも何回か震えているその元となる物の画面を見て、私は再び考える。…試験中に電話っていいのかな?しかし直ぐに天秤はサトツさんよりも表示名の彼に傾いた。だって、出なかったら後が怖い。なるべく目立たないように他の受験者の影に移動しながら、通話ボタンを押す。




「…もしもし?」


『おせぇ』


「…今試験中なんですよ、仕方ないでしょう」


『あー、もう始まってんのか。で?俺よりいい男はいるか?』


「目立つのは変態チックなピエロと何かカタカタしてるのですね」


『…まあ、ハンターは変人が多いからな』




あなたに言われたくはないでしょうね、なんて言葉は胸の中にしまっておくとして。私には、まだまだ言わなきゃいけない事があるのだ。



「…師匠」



『師匠って呼ぶな』



「嫌です。…あなたの息子さんが近くにいるんですもん」



『え…あー、やっぱりか…』



…何なんだその言い方は。こっちはこんなにモヤモヤソワソワしているのに、そんな気持も知らずに軽く受け流しやがって!自分はこの場にいないからって…!



「ふざけないで下さいよくそ師匠。私、どうしたらいいんですかどうリアクションしたらいいんですか話し掛けられたらどう対応してどう自己紹介すればいいんですか…!」


『だから師匠って呼ぶな。…好きにしろよ』



「他人事か!!」



全身全霊をかけてのツッコミだった。勿論小声でだけど。
それでも気持は伝わったのか、あーとかうーとか電話口で唸り声が聞こえる。この人なりに考えているようだ。



『…いいじゃねえか、そのままの関係として伝えれば』


「考えて出した結論がそれですか。友情、努力、勝利の世界でそんな複雑な関係いらないんですよ馬鹿!!」




…もう、何なんだろうこの人は。本気で人が悩んでるというのにこんな他人事で、ヘラヘラしていて。私の気持も一切考えないで。デリカシーを母親のお腹の中にでも置いて来たのだろうか。
私が本気でイライラし始めた時、少しの時間黙っていた電話口からまた声が聞こえた。



『…だってよ、別にいいだろ。将来的にはお前が母親になるんだし』




「……え?」



『今のうちにちゃんと自己紹介しとけって。…っと、もうこんな時間か。じゃあなアヤ、頑張れよ。あと、次からはちゃんといつも通り名前で呼べ』



「え、ちょ…!」




一方的に切られた電話に一瞬足を止めかけて、ハッとする。…いけない、きちんと走らなきゃ。
それにしても、あの人、さっき……

意味を理解して一気に熱を持ち始める頬。さっきまでの悩みを吹き飛ばす程の爆弾を落とした彼の事を考えてると更に熱くなってしまい、必死に走りながら顔を手で扇いだ。



「…馬鹿ジン……」



…そんな私の呟きの中禍々しいオーラを放ちながらガタガタとボールを揺らす紫優に気づくまで、あと2分。







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