父さん、母さんと。紫優を通しての関係であり、まるで親子のような繋がり、絆を最初に求めたのはボク。それに応えてくれた紫優は特別で、ある意味アヤも特別だった。その関係がいつしか紫優を介さなくても成り立つようになったのはいつの事か。そして、本当の親子になりたいと願ったのはいつの事か。全てタイミングは分からないが、それでも紫の少女を欲したのはきっと必然だった。
彼女と紫優達がもう他の世界に行かなくても良くなり、余り忙しくも無くなってからしばらく経って建てた家。そこには当たり前のように、ボクの生活に必要な物が置いてある。最近ではポケモンよりも人型を取るのが当たり前となった、ボクの物が。



「ねえアヤ、知ってた?」


「ん、何を?」



ボクが話し掛ければ、包丁を扱う手を止めてこちらを向くアヤ。台所からはコトコトと何かを煮込む音が聞こえる。他のメンバーは出掛けていて、紫優も昼寝中。とても穏やかな空間の中、ボクは再び口を開く。



「とある地方の神話では、昔はポケモンとヒトが結婚するのは当たり前だったんだって」


「うん、それで?」



トントントン…リズムカルな包丁の音が続く。ああ、まるで自分の心臓の音のようだと、何故かとても冷静に感じていた。心音は一定で穏やかだ。



「…ボクらも、その時代に倣ってみないかい?」



「…ん、要するに?」




…ああ、わかっているのだ。わかっていながらそうやって。カウンターの影に隠れて見えないが、少し意地悪そうに笑っているだろう顔が目に浮かぶ。変わらない包丁の音の速度がその証拠だ。全く、彼女は…。しかしそういう所も好きだと言えば、少しは動揺してくれるのだろうか。なんて、そんな事を考えるあたり相当惚れ込んでいるみたいだ。




「…君の事が好きだ。…本物の、家族になろう」





トン、トン、トン、トン……トン……
包丁の音が止まる。そして、彼女はひょっこりとキッチンから顔を覗かせた。三日月の形の目に、桃色に染まった頬。ああ、きっと答えは…



「…改めてよろしくね、父さん」




直ぐに引っ込んだ顔に一つ、笑みをこぼして。母さんから奥さんに変わった彼女を抱きしめる為、そっとキッチンへ向かった。






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