歩けば歩く、止まれば止まる。
狭い歩幅に合わせて歩く自分の足。その目の前の少女の紫の髪をぼんやりと見ながら、それでも絶対に足はぶつからないように。

てこてこてこ、てこてこてこ…ぴたり。


不意に止まった彼女に合わせてこちらも歩みを止めれば、今までとは違うリアクション。彼女が髪を揺らしながら、こちらへ振り返った。その顔はどこか困ったように見える。



「…あのさレッド君、一体どうしたの…?」


「……気にしないで」


「いや、気にしないでって…」



あのねえ、と呟きながら更に困った表情をする。さっきまで眺めていた髪も悪くはなかったが、やっぱり顔の方がいいな、なんてそれを見ながら考えた。
じっと見つめていれば、視線に気付いたのか困った顔が怪訝そうな顔に変わった。眉が下がっていたのが、軽く上がる。あ、彼女の紫の目の中に僕がいる。見付けた瞬間、心臓がトクンと鳴った。


「あのねレッド君、私何で着いて来られてるのか説明されなきゃわからないんだけど…」


「……説明………」


「理由、教えてくれる?」


「………理由……気になる、から…?」


「ええー…」



だって、理由なんてわからないのだ。
ゴールドという名前のトレーナーに負けて自分が旅をしていた時とは違うポケモン達の存在を知り、またあの昔のような新しいポケモンと出会う高揚感が味わえるのではないかと久々にシロガネ山を出たのが数日前。
そして、他所の地方に向かう中でなぜか思い出したのは、何年か前に出会った紫の髪と目が特徴的な少女…アヤだった。

そういえばロケット団が絡んでいた所では必ず見かけた彼女も見覚えが無いポケモンを持っていたな、から始まって、バトルしてみたいな、今どこにいるのだろうか、また会えるだろうか、なんて考えがどんどん飛躍していった。
ロケット団に対するあの挑戦的な目を思い浮かべると、仲間達に指示する時に揺れる髪を思い浮かべると、何だか昔ポケモンを初めてゲットした時みたいに胸が高鳴った。


…これは、なんだろう?




今まで経験した事のない気持ちに戸惑う。しかしどうせ山から降りたのだ、このままこの気持ちを抱えてモヤモヤし続けるというのは柄じゃないし、直接会って確かめよう。
そう決意して彼女を探そうとすれば、オーキド博士からシンオウにいると教えて貰えた。ナナカマド博士というシンオウの博士が、丁度彼女に用事があるからと数日後に会う約束をしているらしい。これを利用しない手は無いと、直ぐにシンオウ地方に向かった。
そして、計画は上手くいき彼女と再会したのだが…




「…えっと、レッド君さ、せっかくシンオウに来たんだから色々と見て回ればいいんじゃないかな?」


「……後でそうするつもり」


「そ、そっか…」




……やっぱり、見れば見る程モヤモヤするし、その紫の中に自分が写るだけでドキドキする。理由はさっぱりわからない。
…だけど、困ってる顔をするって事は良く思われてないんだろうな、きっと。そう考えると、モヤモヤとドキドキに何故かズキズキまで加わった。



「……迷惑?」


「え?」


「……着いてくの…」


「……ああ。別に迷惑って程では無いけど…」


「……もう少し、アヤに着いてって、いい…?」




嫌がられてないとわかった瞬間、ズキズキが消えた。どうやらこれは、彼女の動きと連動しているらしい。もっともっと一緒にいればわかるんじゃないかと、その許可を取ろうと聞けば、彼女は数回目を瞬かせた。そして、再会してから初めて目を細めた。



「……うん、いいよ。じゃあ一緒にシンオウ観光でもしよっか」




今まで好戦的なものしか見てなかったからか、優しい色を見せるそれに、また心臓が速くなる。
ドキドキと鳴り続ける理由を考えながら、今度は彼女の横顔を見ながら歩き出した。









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