第一試験、前半戦。
とにかく走るだけというある意味とても簡単な、サトツさんの優しさ溢れる試験なうで、私は相変わらず蒼の腕の中。途中、レオリオを始めとして色々な人に罵られたけど知ったこっちゃない。だって持ち物は自由って書いてあったから。仲間や息子を持ち物扱いするのは普段なら絶対しないが、みんなが良いと許可した…というか、是非そうして無理矢理にでも試験に連れてけと言われたので今回は特例でそうさせて貰う事にした。
決して止まる事なく試験官と一定の距離を保ち、尚且つ私に余り振動を与えないという素晴らしい走り方をする蒼の胸のモフモフに顔をうずめながらどうしてこうなったんだろう、とぼんやりと考えてみる。確かに原因はわかり切っているよ、あのくそ師匠だ。私から少し離れた、サトツさんのすぐ後ろを走る少年の父親だ。顔を思い出すだけでもイラついてくる…ああ、ごめんね蒼、波動が乱れてるだろうけど大丈夫だから見逃して。

とにかく原因…寧ろ元凶はわかっている。でも、どんな流れでこうなったのか。ここに来てから余りゆっくりした時間も取れなかったので出来る事の無かった、この世界に来てからの行動を振り返るという作業を、私はやっぱりぼんやりと始めてみた。









この世界に来て初めて出会ったのは、主人公の最終目標であるジン=フリークスその人だった。何というか、夢小説とかでよくある話だ。私のオーラが面白いだかで、そのまま流れで弟子入り。テンガンザンやシロガネヤマに行けるくらいは体力に自身があったけど、彼に求められたものは予想以上。まさか自分がここまで人間離れするなんて思ってもみなかった。
同時に、仲間達と息子を紹介したら気に入って私と一緒に修行する事に。あの人おかしいよ春楡のパンチ素手で受け止めるなんて人間じゃないよ、だから緋翼のかえんほうしゃは料理の為だけにある訳じゃなくて…ああもう美桜と緋翼はお風呂沸かす為にいるんじゃないんだから!なんて色々な事があったけど割愛。
そんなこんなで、私共々気に入られた仲間達、そして息子はそのまま念まで覚えさせられた。まあ、実際とても役に立つだろうし、便利なんだけども。あの人の好い加減なおかつスパルタさに何度ぜったいれいど繰り出そうとしたかわからなくなった頃、私は…いや、私達は師匠に認められた。あの人に「もういいだろ」と言われたんだ、これって結構凄い事だと思う。



…まあ、ここから先を思い出すと何であの時くろいまなざしからのぜったいれいどを何でやらなかったんだって後悔するくらいイラつく話に入る訳で。
大体、私にキャラと絡みたいとかそういう気持ちは一切なかったのだ。だって考えてみれば直ぐわかる事。大前提として私にはやらなきゃいけない事がある。この世界の、私達から少し離れた所を走る主人公よりも、正直な話とても重要度が高い任務だ。あのでっかい白い壁に世界を救えレベルの事を求められてるんだ、不可能だった時の事の被害を考えれば言うまでもない。方や少年のハートが傷付くだけ、方や世界の破滅だ。もしかしたら原作を読んでる人達の期待を裏切るかもしれないけど、それくらいでしょ。

…ああ、話が逸れた。
とにかく、私はキャラと絡むよりも任務が大事なんだ。それにとても正直な話、頑張って鍛えたし念まで覚えたとはいえ死亡フラグは立てたくない。
まず、直ぐそこの銀髪の彼。暗殺一家の次期当主で、お家には個性豊かな暗殺者がいっぱい。そして実はお家に行かなくてもお兄さんが少し後ろを走ってるなんてきたら、本当に関わりたくない。金髪の彼も、ずっと側にいたらどう考えてもヨークシンの蜘蛛フラグだ。復讐は是非私の知らない時に関係のない所でやって欲しい。そしてサングラスの彼。一番良識的で人間らしい彼だけど、もう主人公組ってだけでアウト。原作に全力で関わるからアウト。あ、さっきから気持ち悪いオーラ垂れ流しの変態ピエロと、さりげなく探って来てるカタカタは言わずがもな。主人公は性格は悪くないけど、一級フラグ建築士過ぎて駄目だ。むしろ一番お近付きになりたくないかもしれない。サブキャラもいいです遠慮します。

こんな主要キャラは勿論の事、お天道様の当たらない場所で生きるとか本当勘弁してくださいな気持ちでハンゾー達サブキャラ達も受け付けない私にとって、原作に関わる事がどれだけ鬼門かはわかって貰えただろうか。そして同時に、諸々の事情を知りながらもここに送り出したくそ師匠に対する怒りもわかって貰えるととても嬉しい。



「お前ハンター試験受けて来いよ、楽しいぜ?(俺が)」




今でもあのニヤついた顔は忘れられないし、思い出すだけで殺意が湧いて来る。グリードアイランドなるものが目的です力かして下さいと頼んだ瞬間こうなったんだ、本当にあの親父は世の中舐め切ってると思う。…この世界での恩人であり師匠という立場でここまでズタボロ言われるあの人は、ある意味本当に凄い。


ここまで考えて、私の気持ちは固まった。
まず、主要キャラ達とそこまで関わらないようにしてハンター試験をクリアする。例え目立ったとしても関わらなければいいのだ。絶対に即効で終わらせる。…そして、あのくそ師匠の顔面を、思い切り、殴る。




「……よし」



…そう私が決意する頃には、試験官や先頭の人達は大きなシャッターの前。一時試験の前半戦が終わろうとしていた。



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