「…さあ、行こうか」


腰に付いたボールは5つ。返事をするようにカタリと揺れたそれに、私は笑みを向けた。
目線を上げればそこは暗く大きな洞窟。ナナシの洞窟…別名ハナダの洞窟と呼ばれる場所の入り口に、私は立っていた。勿論、目的は一つ。



「……早くあの子に会いたいなあ…」



愛しの我が子を迎えに行く、ただ、それだけ。











[なんだアイツ]

[ニンゲンだ]

[ワルイやつだ]

[ニンゲンはハイッテくるな]

[デテケ]

[ニンゲンジャマ]

[ヤッツケル]



洞窟内に反響する多くの声。普段人が立ち入る事が無く封鎖された場所だからか、他の土地の野生のポケモン達より言語のたどたどしさが目立った。そして同時に、随分と好戦的なようだ。
ならば戦うのみだ。声の主が仕掛けて来る前にモンスターボールに手を伸ばす。そして、二つのボールを宙へ放り投げた。



「行くよ、美桜、黄雷!」


[かしこまりました]
[任せろぃ]


「美桜、広範囲にみずあそび!黄雷は準備!」

[まいります…]
[了解だぜぃ]


ボールから飛び出したのはミロカロスとレントラー。そしてすぐに技名を指示すれば鳴き声を上げ素早く技を繰り出す。威力の高いみずあそびに辺り一面が水浸しになった。

[ナンだ?]

[ハネがヌレタ]

[ミズ…?]



先程から聞こえている声の主達がざわざわと騒ぎ出す。鳴き声にすればキィキィ。―そう。洞窟に入ってすぐトレーナーを歓迎してくれ、尚且つ分布の多くを占めるのは、大抵ズバット系統だ。ならば。



「美桜、戻って!行くよ黄雷!」

[準備万端だぜぃ]


[ほうでん!!]




その多くを弱点である電気が通りやすい状況に持ち込み、一気に片付けてしまえばいい。
育てられたレントラーの技を喰らい、次々と倒れるゴルバット達に、私は口角を上げた。何と言ってもこの日の為に私は色々と準備をしてきたのだから。

いくらチートじみた力を持っているとはいえ、一人でハナダの洞窟に立ち入るなんて自殺行為だ。まず周りの人間が許可する訳もない。だから、文句を言われないよう誰もが認めるくらい強くなった。前の世界で身につけた廃人一歩手前の知識を生かし、時には自らの能力を生かして。結果、私はパートナーと呼べるポケモン達を、仲間を手にする事が出来た。そして、強くなり何個ものバッジも手に入れた。それと同時にジムリーダーや有名なトレーナー達とも繋がりが出来た。
次に環境作りだ。あの子が外に出たとしても、またロケット団に狙われては困る。そう考えた私は、レッド少年が旅立ち行く先々でロケット団のアジトを壊滅させて行くのを手伝った。そして、その残党達もなるべく集まれないよう手を尽くした。なるべく、というのは三年後ロケット団の残党達が立ち上がり再び事件を起こすのを知っているからだ。
正直、それは仕方がない事だと思う。もしそれが無いが為に未来が変わって状況が更に悪化しても困るし、未だ見ぬゴールド少年のステップアップにもならない。しかし事件が起きたら必ず我が子を守り、解決の手助けをする気でいる。


…そう、私はあの子の為に様々な準備をしてきた。お陰で迎えに来るのは少し遅れてしまったが、それでも尽力したつもりだ。
だからこそ。だからこそ、あの子と会うのが楽しみで仕方ない。それが無いとしてもあの子は大切な大切な自分の子供で、愛おしむべき存在なのだから。




「蒼、サポートお願い!」

[御意!]




早く早く、あなたに会いたいの。




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