[まず、ボクらの世界について…そして、ボクらポケモンについて詳しいこと。ボクらについて深く知らないと一々説明して指示しなきゃいけないからね、神と呼ばれ伝説と呼ばれるようなポケモン達はそうやすやすと人前に出れない。だから、ある程度はボクらについて詳しくなくてはいけない]



用意された答えのようにミュウはすらすらと答える。それを聞きながら私は必死に頭の中を整理しようとしていた。



[次に他の世界…君の世界ではマンガやアニメやゲームになっているものについてもある程度詳しいこと。…理由はさっき説明したからわかるよね?]



小さく頷くと、ミュウは満足そうに頷き返した。



[そして…これが大事なポイントだ。5匹が己の最大限の力を出し時空を歪ませられる瞬間、君の世界で体から魂が離れようとしてる、尚且つ生きたいと強く望んでること。これが、条件。
アルセウスといえど、魂を創造する事は出来ないからね。そちらの世界で一瞬さ迷った魂をボクらの世界で創造された肉体に入れる事くらいしか方法が無かったんだよ。そしてその魂が離れた理由が、自ら命を絶とうとしたから、なんてものでは困る。ボクらの世界や他の世界で自殺なんてされたら計画が全てパーだからね。
…それで、世界中のあらゆる人間が死に近付いたその瞬間、君が選ばれた]


「私、が…」


[そう。…強く願ったでしょう?生きたい、って]



確かにそうだ。私は、生きたいと願った。自分が、そしてこの子が生き延びるようにと強く願った。神なんて普段は頼らない不確定なものに頼るほど、強く。



[ただし、アルセウス達にも一つだけ誤算があったみたいだね]


「誤算…?」


[君の子供さ。創造した肉体は一つ。でも、君には君自身の魂と、小さくてももう一つの魂が付いている。肉体が足りないんだよ。まあ、ボクらは卵で子孫を残すし、アルセウス達は卵さえも作らない存在だからわすれても仕方ないと思うけどさ。
それで、その子についてなんだけど…ボクにくれないかな?]


肉体は一つ。そう言われサッと血の気が引いた私に、ミュウは笑いかける。その無邪気な顔で、まるで困ったように。



「え…なん、で……」


[ボクにも事情があってね。…実は今ボク、人間に捕まってるんだよ。身勝手で、愚かな人間達に]



―そこで初めて違和感に気付いた。ミュウの口調は友好的で優しいものだった。表情も元の可愛らしさが相まってか、無邪気に見えた。しかし、実際そんな事は一切無かったのだ。ミュウは嫌っている。憎んでいる。私達人間という種族を。
そして、ミュウが人間に捕まり憎む原因になるであろう出来事を、私は知っていた。



「ミュウツー…」



ぽつり、小さな声で呟いた言葉に大きな反応。…そうか、やはり……



[あはは、やっぱり知ってるんだ?そうだよ、忌ま忌ましいあの人間共がボクから新しいポケモンを創ろうとしてるんだ。能力が高く、賢く、強大な力を持ったポケモンを。
…でも、人間が創ったものでは魂が足りなかった。器は出来ているんだ。でも、奴らが期待する反応を見せない。そりゃあ当たり前さ、アルセウスでさえ創れないものを人間ごときが創れるはずないもの。
なのに原因はボクだって、ボクを傷付ける。お陰でボクの体はボロボロ。やっとの思いでここの空間に飛んで来たけど、さて、これから先持つかどうか…。まあ奴らはデータさえ取れればボクの命なんてどうでもいいのかな]



クスクス、と空間に響く笑い声に思わず身震いする。普段生きてきてあからさまな嫌悪や憎しみを感じる事なんて滅多に無い。慣れない強い感情は、私に威圧感を感じさせるには十分だった。



[でも、そこで君に魂が一つ宿っている事を知った。…君にとっても悪い話じゃないはずだよ?器も無く魂だけでの存在では君の子供は生きてはいけない。それを、器に入れてあげよう、生きながらえさせてあげようって言っているんだ。必ず生き残ると保障されている、器に]


「で、でも、他に方法が…!」


[まさかあるとでも?異世界の魂である君の器を創るだけでも大変だったのに、今すぐもう一つ器を創るなんてできっこないさ。……時間が無いんだ。答えは…一つだよね?]




圧倒的なまでの威圧感。そして、選択肢の排除。必死に打開策を思い付こうとしても、五月蝿いくらい高鳴る心臓の音のせいで上手く思考が回らない。




[……さあ、]




催促の声と共に増す威圧感。
そして、私は――





「………わかっ…た…」




苦々しく絞り出すように、4文字の言葉を呟いていた。




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