絶望とか悲しみとか焦りとか不安とか、そんな負の気持ちがごちゃごちゃになった。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。頭の中でリピートされるのはそれだけ。

まだこんな歳で、親に何て言おう、あの人にも何て言おう、お金は、まず、産めるのか―


ぐるぐると思考が回り体が震え出す。手に持っていた妊娠検査薬がカシャンと音を立てて床に落ちた。
それをゆっくりと拾い上げ、握りしめながらトイレを出る。余りに顔色が悪かったからだろうか、順番を待っていた人が怪訝そうな顔をしていた。


ぐるぐる、ぐるぐる。


おぼつかない足取りで進む。21歳、中の上くらいの大学に入ってからは普通に学んで、遊んで、バイトして、恋愛して。結婚なんてまだ頭になかったし、子供なんてもっての外。今の彼氏は確かに好きだけど、いつまでも一緒にいれるとは思ってなかったし、多分いつか違う人と結婚して家庭を築くんだと考えていた。

なのに、今、私の中に一つの命が宿っている。



「どうしよう…」




そう、呟いた瞬間だった。受け止められない現実にショックを受けフラフラと歩いていた私は、信号を無視してこちらに向かって来る車に気付かなかった。危ない、避けろ、逃げろ、そんな叫び声が聞こえて騒がしさに顔を上げる。


―ドンッ



鈍い音に、衝撃。まるでスローモーションで空を飛んでるかのような感覚。その時さっきの声の意味や自分の状況を全てを理解した私は……無意識に、お腹を守っていた。
そして、気付く。どうあっても、この子は私の子供なんだと。あの人との間に出来た、私の、可愛く大切な子供なんだと。

鈍い音を立て地面に叩き付けられた瞬間も、丸まるようにしてお腹を守る。
叫び声や怒声、混乱の声が聞こえる中。私の意識は、ゆっくりと沈んでいった。





―お願いです神様。私とこの子に生きるチャンスをください




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