「………う…あ……?」


[ああ、目が覚めたかい?]




ぼんやりとした意識の中、真っ先に目に入ったのはドアップのピンク。軽口とは反対に緑の瞳は心配の色を湛えていた。



「………ミュウ…?」

[そうだよ……わっ!?]



頷くと同時にピンクが視界から消える。次に現れたのは……



[っ……よかった……!]

[お目覚めに、なられましたか…!]

[もう、めをさまさないかとおもいました…!]

[本当に、よかったぜぃ…!]

[チッ……心配かけやがって…]




見慣れた五匹の顔。そして……



[………よか、った……]



小さく聞こえた、我が子の声だった。
ああ、そうだ…頭の中を駆け巡る先程の出来事に頬が緩む。幸せな気持ちのまま皆の顔を見ようと起き上がろうとした。しかし…


「いっ…!?」


身体に激痛が走り、そのままダウン。余りの痛みに涙が滲む。するとミュウが呆れたように再度こちらへ近付き、ゆっくりと起こしてくれた。それを蒼が支えてくれる。


[ったく…当たり前だよ。何カ所も骨折してるし出血は酷いし、体中ズタボロだったんだから。ボクのいやしのはどうと美桜のいやしのひかり、それにその辺にいたラッキー達の手を借りて何とかその状態にしたんだからね。多分まだ肋骨と足が多少いってると思うよ]


「わお…」


そんなに重傷だったのか…流石我が息子、パワーが凄まじい。引き攣った笑みを浮かべながらありがとう、と素直に頭を下げたら、当たり前だよ馬鹿!と拗ねたように返された。今回ばかりは本当に申し訳ない。
…と、ピンクの背後にオレンジ色の炎が近付くのが見えた。見慣れた、美しく燃える炎。持ち主は一人しかいない。緋翼、と名付けた私の相棒。




「………ひー……?」


いつも通りの愛称で呼ぶと、彼は顔を歪めた。そして、その大きな口で吠える。



[馬鹿野郎がっ!!!]



洞窟内に、リザードンの咆哮が響き渡った。



「……緋、翼…?」


突然の言葉に困惑しながら彼を見ると、思い切り顔を歪めながら睨みつけ…そして、今にも泣きそうな表情になった。


[アヤ、お前はアイツを守るって言ってたな、でもお前を守ると誓ったのは俺だ!全てを認めて着いて来た、けどお前が勝手に死ぬのを認めたわけじゃねえだろうが!俺が!あいつらが!どんな気持ちだったかわからねえのか!?]


緋翼の言葉に、頭を殴られたような衝撃を受ける。そうだ、あの時ガタガタと揺れるボールを押さえ、単独で彼に立ち向かったのは私だ。心配をかけるのをわかっていて、どんな気持ちにならせるかをわかっていて、それでも私は行ったのだ。特に、一番大きく揺れていたひーの…緋翼のボール。ボールの中という絶対的な空間にいながらも、彼は必死に出ようとしていたのだ。全ては、私を守ろうとして。



[………生きた心地が、しなかった…]



搾り出すように呟かれた言葉。それに、胸が痛くなる。周りを見れば、こちらを見つめる四対の目。背中を支える蒼も頷く。みんな、緋翼と同じだと目の色が伝えていて、罪悪感でいっぱいになった。



「……心配かけて…ごめんなさい…」



みんなの目から逃げるように俯き、謝罪の言葉を口にする。申し訳なさで胸が苦しくなった。色々と事情を知りながらもついて来てくれた彼等に何をしているのだろうと自分を責める。心配するのは当たり前だ。ここにいる誰が同じ状況になったとしても、私は心配するしどうしてでも助けようとするだろうから。申し訳なさで押し潰されそうだ。ぎゅっと唇を噛み締めたその時、硬いものが、そっと私の頭にのった。そのまま不器用に頭を撫でる。覚えのある感触にゆっくりと顔を上げると…仕方ない、という顔をした緋翼と目が合った。



[……ったく、今回だけだからな。次からはこんな心配かけんじゃねーぞ]



私の頭を撫でながら苦笑を浮かべる緋翼。そして周りのみんなも、同じような表情を浮かべていた。


「…みんな…本当にごめんなさい…!」


[もういいっつってんだろーが。お前が反省してるならいいんだよ]


[…次はねぇからな、覚悟しやがれ]



そっぽを向いたまま呟く春楡に思わず苦笑しながら頷くと、緋翼は数回私の頭を掻き回してから手を離した。




[…さあて、お前ら撤収だ。ああ、ミュウ。お前アヤのサポートとして何か他のポケモンに変化しとけよ]

[わかったよ]


緋翼がそう言うなり、ミュウはルカリオに姿を変え私の側へと寄る。手持ちのメンバーは全員大人しくボールへ戻っていった。残ったのは、私と、ミュウと、彼…ミュウツー。



親子、と呼べるであろう三人が揃った瞬間だった。




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