翌日、アスカはハグリッドの元を訪ねて行ったがタイミングが悪かったのか、ハグリッドは留守だった。
ハグリッドの小屋でファングと暫くじゃれあいながら待っていたが、ハグリッドとは結局会えなかった。
禁断の森の中は薄暗く、広い。
近くならば1人でも大丈夫だが、アラゴグはそんな近くには居ないだろう。
簡単に見つかる場所には居ないはずだ。
禁断の森には他にも様々な生物が潜んでいる。
そんな中を勝手に1人で森の中へ入るとなると自殺行為だ。
アスカはその日は大人しく寮へ戻ったが、その翌日はニコルに日本のバレンタインの事を話したせいで捕まり、さらに翌日は一年生の何人かに宿題を教えて欲しいと頼まれたり、とまるでアスカが真相に近付くのを阻むように邪魔が入った。
そんな日が2週間も続き、カレンダーが2月から3月に変わった頃になるとアスカはもう自棄になり、自分で見つけ出してやる!、と図書室にこもっては生物図鑑や怪物が関わる伝承を片っ端から読み漁った。

(継承者がパーセルマウスだから、きっと蛇の怪物だ。黄色い目玉が2つの蛇の怪物! 石化の能力があって、殺す事も出来る)

沢山の本を調べたが、図書室の中にはアスカが7年間かけても読み切れなかった程の本がある。
加えて、ちょいちょい一年生やニコルとセドリック、双子や他の寮の名前も知らない生徒達がアスカに声をかけてくるので中々調べ物は捗らない。
消灯後には例の部屋で能力のコントロールの練習をしなければならないので調べ物だけしているわけにもいかない。
調べ物も、能力の特訓も、両方目を使い、頭を使う。
今までは能力の特訓だけであり、何とかたまに目眩を感じながらも生活していたアスカだが、負荷が増えた事により、1週間、2週間、3週間経った頃には、周囲から『顔色がひどい』『目の下の隈が濃い、ちゃんと睡眠摂ってる?』『医務室に行った方がいい』『またフラフラしてる。目眩? なんかの病気じゃないのか?』と、口々に案じられるようになっていった。
挙げ句の果てには、ドラコにまで『ダンブルドア、君、病気か?』と怪訝な顔で言われ、アスカは、体力的にも外見も、周囲が見てすぐに分かるほど相当疲労が蓄積していた。
隠しきれない所まで来て、仕方がなくアスカは休みの日を休養に充てがった。
土日共に殆どを寝て過ごしたアスカを他の生徒達が怪物に襲われたのではとヒソヒソと噂をしていたが、月曜日に幾らか隈の薄くなったアスカを見て、噂はすぐになくなった。

(少し、頑張りすぎた…あたしが倒れたりでもしたら元も子もないよね)

幾分か身体の調子が軽くなったアスカは、ひっそりと今後はもう少し睡眠時間を増やそうと反省した。
生徒達に紛れて、セブルスがホッと胸を撫で下ろしていたなどアスカは考えもしなかった。
それから1週間は体調を回復するためにアスカは、多めに睡眠時間を摂るようにした。
そうして4月になり、2年生は復活祭の休暇中に新しい課題を与えられた。
来年、3年生で選択する科目を決める時期が来たのだ。
アスカは、そういえばそうだった、と懐かしさに目を細めながら何を選ぼうかと悩む。
ハリー達にとっては将来に影響を与える選択になるのだが、既に成人してしまっているアスカにとってはその点に関しては関係ない。
前回選んだ科目であれば既に一度受講しているため簡単であるが、選ばなかった科目を受講するのも面白いかも知れない。
ただし、その場合は勉強を真面目にしなければならないので、その点だけがネックではあるが。
だが、そんな事を考えたのは本当に数秒で、アスカはハリー達を見た。

(ハリーと同じ科目をとる。その一択しかあたしにはない───問題は、どうやってハリーが選んだ科目を知るか、よね…)

以前のように4人で一緒にいたときなら、簡単に知り得た情報でも、今はそれが難しい。
悩んでいるアスカの目に、談話室でリー・ジョーダンと話している双子が入って、閃いた。
アスカは双子を呼び出して、こそこそと用件を伝えて頼むと、双子はニヤリと笑って頷いた。

「1つ、貸しだからな」
「う、分かったわよ。ただし、悪戯の協力は嫌だからね?」

フレッドとジョージはアスカの返答に若干不満そうにしながらも、アスカの望み通りハリーの選択科目を聞き出してきてくれた。
礼を告げて、アスカはハリーと同じ科目にチェックを入れ、提出した。
ネビルは、色んな人に意見を聞いてはうんうん唸って悩んでいた。
復活祭の休暇が終わると、クィディッチの試合がある。
グリフィンドールの次の対戦相手はハッフルパフであり、アスカはハリーの応援は勿論するが、セドリックの応援もしたい…と、複雑な心境で夕食後に練習に行くグリフィンドールチームのメンバーを見ながら考えていた。
グリフィンドールが寮対抗クィディッチ杯を獲得する可能性は今や最高潮だ、とグリフィンドール生達は活気付いていたし、ハリー達も毎日の練習に文句など言わずに取り組んでいた。
その日、アスカは談話室で読書をしていた。
図書室で借りてきた怪物に関する書物だったが、割と面白かったため読み耽り、ハリー達グリフィンドールチームのメンバーが帰って来たことに気づかなかった。

「大変だ、ハリー! 誰がやったんだか分かんない。僕、今見つけたばかりで──…!」

そう叫ぶようにハリーに言うネビルの声で顔を上げた。
ネビルはパニックになっているし、ハリーはワケが分からないと困惑している。
アスカは何かあったようだと読んでいた本を閉じた。

「部屋が、荒らされてるんだ」

ネビルの言葉に促され、ハリーは部屋へと向かう。
騒ぎに気付いた同室者のロン、ディーン、シェーマスが険しい顔付きでハリーの後を追った。
アスカは、そっとその後に紛れるように続く。
開かれたドアの向こうは、ひどい有り様だった。
床の上にはマントがズタズタになって広がり、天蓋付きのベッドのカバーは剥ぎ取られ、ベッド脇の小机の引き出しは引っ張り出されて中身がベッドの上にぶちまけられている。

「一体どうしたんだい、ハリー」
「さっぱり分からない」

アスカは、部屋の中を片付けながら確認しているハリー達を開けっ放しになっているドアから隠れて覗き見ていた。
部屋の中は、まるで泥棒が入って物色した後のようだとアスカには思えた。

「誰かが何かを探したんだ」
「何かなくなってないか?」

ロンに聞かれたハリーがトランクの中に散らばった物を投げ入れながら、あ、と声を上げる。

「リドルの日記がない」

ドアのそばに居たロンにコソリと告げたハリーの声が聞こえてしまい、アスカは目を見開いた。
そのまま談話室へすぐさま戻る。
アスカが、起きっぱなしにしていた本を手に取った所で、ハリーとロンが談話室へ戻ってきた。
ハーマイオニーを呼んで、こそこそと何やら話している。
アスカは3人に気付かれないように自室へ戻った。
誰もいない部屋で、アスカはポツリと呟く。

「“リドルの日記”? リドルって、まさかトム・リドル?」

何故、トム・リドルの日記をハリーが持っているのか?、という疑問が浮かび、すぐにバレンタインの時ドラコが拾い上げた日記のことを思い出す。
アスカは、インク汚れが着いていないように見えたあの日記が、怪しい物ではないかと一瞬疑った。
だが、あれはハリーの日記であろうし、さらにはハリーがそんなものを手にする機会はないだろう、と気のせいだと考えた。
だが、あれが“トム・リドルの日記”であるのならば話は違ってくる。

(もし、あれが闇の魔法が掛けられた日記なのだとしたら、一気にトム・リドルが怪しくなる。いや、誰かがリドルの日記を利用しようと考えたのかも知れない……どの様にしてハリーが日記を手に入れたのかは分からないけれど、誰かが日記を取り戻そうとハリーの部屋へ侵入した? 50年前に秘密の部屋の怪物を退けたとされているリドルの日記は、後継者にとって都合が悪いことが書いてあるのかも知れない。だとすれば、その人物は必然的にグリフィンドール生になる。グリフィンドールの中に、スリザリンの後継者がいる?)

アスカは、自分が導き出した事に驚愕し、足が震えた。
だが、グリフィンドール寮に入る合言葉を知っているのは、グリフィンドールの生徒と寮監であるマクゴナガルだけだ。
まさかハリーとロンのようにポリジュース薬を使ってまで忍び込む生徒が居るとはとても思えない。

「女子寮には男子は入れないけれど、男子寮には女子だって入れる……そうね、ハリーがリドルの日記を持っていることを知っていた人物が、怪しい。一体誰かしら?」

ハリーと常に一緒に居たのなら、すぐに分かったかも知れない…そんな事を今更後悔しても遅いが、アスカは頭を抱えた。

(ハリーに直接聞いてみる? ああ、やっぱりダメ。怪しまれるだけだ…)

アスカは考えながらぐぅ、と唸る。

(最近は、ずっとこれの繰り返しだ。考えても悩んでも、答えが一向に出てこない。もどかしい……ああ、能力が使いこなせたらどんなに楽か…っ)

能力は、未だに使いこなせていない。
歴代の当主達が一生を捧げても出来得なかった事を、独学で、しかもまだ取りかかって半年も経っていないアスカには土台無理な話だったのだ。

(───後継者は、日記を取り戻した……もし、これまでなりを潜めていた理由が日記なのだとしたら…憂いがなくなったとしたら、また動きだすかも知れない。今度こそ、あたしを狙って現れる筈…)

アスカの眼鏡の奥の瞳が、ギラリと光った。

「漸くお目にかかることが出来るのね」

アスカとスリザリンの継承者との会合の時が近付いて来ていた。













To be Continued.