どうやらロックハートはハリーに何やらアドバイスを話しているようだったが、杖を落としたり、挙動不審な動きをしたりしてハリーを混乱させているようにアスカには見えた。
ロックハートとハリーの様子を嘲り笑って見ているセブルスは、ドラコに近付いて耳元でこそこそと何やら吹き込むように囁く。
ドラコがセブルスと同じ様にニヤリと笑っているので、どうせろくでもない呪文でも教えたのだろうとアスカは呆れて言葉が出てこない。

(昔、見たことあるわよ。くだらない決闘紛いの喧嘩でしたけどね)

ジェームズとシリウス、セブルスの3人はそれはもう猿と犬も吃驚するほどの仲の悪さで有名だった。
グリフィンドールとスリザリンだからというだけではなく、性格も合わなかったのだろう。
何とかいがみ合うのをやめさせようと画策した時もあったが、ジェームズとセブルスはリリーを巡っての恋のライバルでもあったものだから、もうアスカの手には負えなかった。
ジェームズ達は多数でセブルスを笑いものにしたり、気付いたアスカが慌てて止めなければならない程危険な際どい苛めをし、反対にセブルスがその更に上をいくような仕返しをするものだから、もう最後は3人の仲を改善する事を諦めた。
昔の事を思い返していたアスカは、ロックハートと話しながらもハリーがチラチラと助けを求めるようにアスカを見ていた事に気付かなかった。

(あの頃みたいに、いざという時は割り込んで2人共気絶させればいいか)

その方が目立つのではないか、とハーマイオニーが聞いていたらそう言ったのだろうが、生憎アスカは気付かずに向かい合うハリーとドラコを見つめる。

「1……2……3……それ!」

ロックハートの号令がかかると、ドラコは素早く杖を振り上げ呪文を大きな声で唱えた。

「サーペンソーティア!」

ドラコの振り下ろした杖の先から長い黒蛇がニョロニョロと飛び出すように出てきて、ハリーはギョッとした。
蛇はハリーとドラコの間の床にドスンと落ち、鎌首をもたげて攻撃の態勢を取る。
周囲の生徒は悲鳴を上げ、さーっと後ずさりしてそこだけが広く開いた。
アスカはジニーや近くの女生徒を自分の背に庇うように、皆とは逆に前に出た。
アスカが苦手なのは蜘蛛であり、蛇は気持ち悪いなと思うが蜘蛛のように、身震いするほど嫌悪するまでいかない。
薬の材料にも蛇はあるので死んでるものは余裕で、生きた蛇でも触ろうと思えば素手で触れる程度だ。
それも、出来れば触りたくないが必要なら仕方ないか、という前提はあるが。

「あの蛇、薬の材料になるかしら」

そんな事をポツリと呟きながら暢気に蛇を観察するが、アスカには蛇の種類など分からなかった。

「動くな、ポッター」

セブルスが悠々と言った。
ハリーが身動ぎもできずに、怒った蛇と目を合わせて立ち竦んでいる光景をセブルスは楽しんでいるようだった。

「我輩が追い払ってやろう」
(もしかしてセブ、マルフォイ君に蛇を出すように指示したんじゃないでしょうね?)
「私にお任せあれ!」

セブルスがニヤニヤ歪んだ笑みを浮かべながら杖を構えるのを見ているアスカが訝しんでいると、セブルスを遮るようにロックハートが叫び、蛇に向かって杖を振り回した。
バーン、と大きな音がして、蛇は消え去るどころか2、3メートルも宙を飛び、ビシャッと大きな音をたてて床にまた落ちた。
挑発された蛇は先ほどより怒り狂っており、シューシューと近くの生徒に滑り寄って鎌首をもたげて攻撃の構えを取った。
ハッフルパフのジャスティン・フィンチ-フレッチリーは牙を剥いて威嚇している蛇に睨まれ動けない。
アスカは彼の事を知らなかったが、スプラウト先生のマンドレイクの植え替えの授業の際に、ハリー達と4人で組んだことのある生徒だった。

「あれは流石にマズい…」

アスカは杖を構えようとしたが、次いで目に飛び込んできた光景に目を見開いた。
ハリーが蛇の近くまで躊躇うことなく歩み寄り、叫んだ。
だがその声は、蛇が出すような威嚇の音に良く似ておりアスカにも周囲の生徒達にもハリーが何を言っているのか理解できない。
だが、あれだけ怒り狂っていた蛇の様子が変わったように見えた。
蛇の動きはどこかフラフラとして、まるでハリーに操られているようだった。

「一体、何を悪ふざけしてるんだ?」

ジャスティンは叫び、ハリーが何かを言う前に怒って大広間から出て行ってしまった。
セブルスが杖を振り、今度こそ蛇は黒い煙を上げて消え去る。
皆がハリーを見ていた。
生徒達はヒソヒソと話し、その顔は皆、恐怖や訝しみで歪んでいる。
セブルスも鋭く探るような目つきでハリーを見ている。
ハリーは周囲を不思議そうに見回していたが、ロンに袖を引かれ大広間から逃げるように走り去って行った。
ハーマイオニーも急いでついて行く。

「そ…んな……」

アスカは自分の目が、耳が信じられない思いだった。

(ハリー……貴方、パーセルマウスだったの?)

呆然としていると、黒尽めの友人が視界に割り込んできた。
アスカはセブルスの鋭い視線に、首を左右に振る。

(どういうことだとか問い質されてもあたしだって知らなかったんだから、貴方に何も言うことありません)

ただ、本当にハリーがパーセルマウス…つまりは蛇語が分かるのならば、今のホグワーツでは辛い状況に
なるだろう。
サラザール・スリザリンは、パーセルマウスで有名だった。
サラザール・スリザリンと同じ様に蛇と話せるハリーがスリザリンの継承者なのだ、子孫に違いない、という噂が瞬く間に広がる事は容易に想像出来る。
しかも、その姿をホグワーツの殆どの生徒が見て、ハリーの話す蛇語を聞いた状況では、防ぐ事など不可能だ。

(これは、マズいことになりそうだ……)

ハリーが居なくなった途端に生徒達のざわめきが大きくなり、アスカは頭を悩ませた。
チラチラとアスカに視線を向ける生徒達が何名かいる事に気付き、アスカは足早に大広間を出て行く。

(セドリックとニコルには悪いけど、このままいたら質問責めにされるわ)

アスカの後をついてきた者は居なかった。
先程ハリーの蛇語を聞いたせいか、シューシューという音が今にも聞こえてきそうで、アスカはダンブルドアのもとへ急いだ。

(こんな重要な事知っていて黙っていたのなら、抗議しなきゃ)

アスカは醜い大きな石のガーゴイル像の前に立ち、合言葉を唱える。
ガーゴイル像は忽ち生きた本物となり、ピョンと跳んで脇に寄り、背後にあった壁が左右に割れた。
現れた螺旋階段は上へと続いており、アスカは躊躇うことなく慣れた動作で階段に乗るとクルクルと螺旋状に上へと運ばれていく。
その間にガーゴイル像の背にあった壁が閉まる音が響いた。












To be Continued.