パーシーは大股で近付いて来て、腕を振って4人をそこから追い立て始めた。

「人が見たらどう思うか分からないのか? 皆が夕食の席に着いているのに、またここに戻って来るなんて──!」
「!」

パーシーの言葉にアスカは、ハッと息を飲んだが、ロンは眉間に皺を寄せた。

「何で僕達がここに居ちゃいけないんだよ」

カッと頭に血が上ったようで、急に立ち止まってパーシーを睨みつけ、語気を強める。

「いいかい。僕達、あの猫に指1本触れていないんだぞ!」
「だけどあの子は、それでも君達が退学処分になると思ってる。あんなに心を痛めて、泣きはらした目をしてるジニーを見るのは初めてだ。少しはあの子のことも考えてやれ。一年生は皆、この事件で神経をすり減らしているんだ」

赤く腫れた目をしたジニーの姿が浮かび、アスカは胸が痛んだ。
てっきりMrs,ノリスや犯人が怖くて泣いているのだと思っていたアスカは、自分達を心配してくれていたのだとパーシーから聞かされ、衝撃を受けた。
だがそんなパーシーの言葉も、頭に血が上ったロンには届かなかったようだ。

「兄さんはジニーのことを心配してるんじゃない。兄さんが心配してるのは、首席になるチャンスを、僕が台無しにするってことなんだ!」
「ロ、ロン!?」

耳まで真っ赤にさせたロンの口から出た言葉に、アスカは耳を疑った。

「グリフィンドール、5点減点!」

パーシーは、監督生バッジを指で弄りながらパシッと言った。

「これでお前には良い薬になるだろう。探偵ごっこはもうやめにしろ。さもないと、ママに手紙を書くぞ!」

パーシーは吐き捨てるように言って大股で歩き去って行ったが、その首筋は、ロンの耳に負けず劣らず真っ赤だった。
アスカは、呆れたように息を吐いたが、夜になってもロンの機嫌は直らなかった。
夕食の後、談話室に戻ってきた4人は、出来るだけパーシーから離れて場所を選んだ。
不機嫌なままのロンは、妖精の呪文の宿題にインクの染みばかり作り、その染みを拭おうと何気なく手にした杖が突然発火して、羊皮紙が燃えだした。
アスカが慌てて杖を振って消火したが、ロンは炎のように真っ赤になって、基本呪文集・二年生用という教科書をバタンと閉じた。
ロンが教科書を閉じると、驚いたことにハーマイオニーも教科書を閉じた。
アスカがそれに目を丸くしていると、ハーマイオニーはソッと口を開いた。

「だけど、一体何者かしら?」

それはごく自然で落ち着いた声だった。

「出来損ないのスクイブや、マグル出身の子をホグワーツから追い出したいと願ってるのは誰?」
「それでは考えてみましょう」

ロンは、わざとらしい声音で言いながら頭を捻ってみせた。

「我々の知っている者の中で、マグル生まれはクズだ、と思っている人物は誰でしょう?」

ロンのもったいぶった言い回しに、ロンの言いたい事を察してアスカは眉を顰めた。
ハーマイオニーも、まさか、という顔でロンを見返す。

「もしかして貴方、マルフォイの事を言っているの?」
「勿論! あいつが言ったこと聞いたろう? しっかりしろよ、あいつの腐ったネズミ顔を見ただけで、あいつだってわかりそうなもんだろ」

あの夜、確かに大きな声でドラコは「次はお前達だぞ、穢れた血め!」と叫んだ。
ロンの口振りでは、あの夜からそう考えていたに違いないようだった。

「マルフォイ君が、スリザリンの継承者?」
「マルフォイが?」

ハーマイオニーもアスカも、それは疑わしい、と同じような表情で顔を見合わせた。

「あいつの家族を見てくれよ」

言いながらハリーもバタンと教科書を閉じて3人を見る。

「あの家系は全部スリザリン出身だ。あいつ、いつもそれを自慢してる。あいつらならスリザリンの末裔だっておかしくはない。あいつの父親もどこから見ても悪玉だよ」
「あいつらなら、何世紀も『秘密の部屋』の鍵を預かっていたかもしれない。親から子へ代々伝えて……」

(ルシウスか。確かにあの家はヴォルデモート派だったし、根っからの純血主義だけれど、ルシウスから秘密の部屋の事なんて聞いたことなかった。フィーレン家の誰からも)

昔の記憶を辿りながらアスカが首を傾げていると、ハーマイオニーが頷いた。

「そうね。その可能性はあると思うわ……」

慎重に言ったハーマイオニーに、アスカは戸惑った。

「そうかな? あたしは、マルフォイ君は違うと思うけど…」
「「どうして!?」」

アスカが2人の意見に異を唱えたからか、ドラコの肩をもったのが不満なのか、ロンとハリーが途端に顔を曇らせて声を荒げた。
その2人に多少気圧されながらも、アスカは至って冷静に言葉を紡ぐ。

「あたしが継承者だったら、大勢の前であんな事言わない。次はお前の番だ、なんて、自分が継承者だと言っているみたいなものじゃない? それに、マルフォイ君って、言っちゃああれだけど、結構臆病よ。自分の盾になってくれる腰巾着や先輩がいないと強気で居られないの。そんな人が、あんな大それた事出来るかな? した後で、あんな事を大声で言えるかな? あたしには、無理だと思うわ」

アスカは、ロン達が考えたのと同じようにドラコを怪しんだが、最初の過程で外していた。
彼は、継承者だとかそんな大それた器ではない。
それが、アスカのドラコに対する見解だった。

「あのマルフォイを臆病者呼ばわりって……」
「それはベルだからそう言えるんだよ」
「そう? でも、去年のあの森での事を思い出して、ハリー。マルフォイ君は真っ先に逃げ出したでしょう?」

去年、罰則で普段は立ち入りを禁じられている森へ入り、可哀想なユニコーンを探して出くわした闇の者。
闇の者からいち早く逃げ出したのが、ドラコとハグリッドの相棒、ボアハウンド犬のファングだった。
それを思い出したハリーだったが、あの場合、きっと大抵の人なら誰でも逃げ出すに違いないと思う。

「……やっぱり、ベルだからそう言えるんだよ」
「えー?」

苦笑いのハリーに、アスカは不満そうに声をあげた。

「やっぱり、今1番怪しいのはあいつしかいないよ」
「でも、どうやって証明する?」

不満そうなアスカを置いて、話はドラコを如何にして継承者だと証明するか、と移った。

「──方法がないことはないわ」

ハーマイオニーが何か考え付いたようで、ソッと声を抑えて言った。
その声音と顔付きから、アスカは嫌な予感がした。

「勿論、難しいの。それに危険だわ、とっても。学校の規則をざっと50は破ることになるわね」
「!?」

まさかあのハーマイオニーが、規則を破る提案をするだなんて、とアスカは、目を見開いた。

「あと1ヶ月位してもし君が説明してもいいというお気持ちにおなりになったら、その時は僕達にご連絡下さいませ、だ」
「承知しました、だ」

イライラとしたロンの言葉に冷たく言い返したハーマイオニーに、アスカは3人に気付かれないようにほっと息を吐いた。

(Mrs,ノリスの事があって思わずあたしもハリー達と継承者だ秘密の部屋だと一緒になって騒いでしまったけれど、自分の立場を考えなければ。今年こそ、ハリー達に危険に首をあまりつっこまらせずに進級出来るように誘導しなきゃ。この前の先見の事もあるし……危険なのはハリーより、もしかしたらあたしなのかも知れないし……)

アスカがそう考えながらバタンと教科書を閉じると、聞こえてきたハーマイオニーの言葉に頭を抱えたくなった。

「簡単に掻い摘まんで言うと、私達4人でスリザリンの寮に行くのよ。スリザリンの生徒の姿にポリジュース薬で変身して。その姿で聞けば、マルフォイは、自慢気にペラペラ話してくれるに違いないわ」

ハリーとロンに触発されたせいか、ハーマイオニーが段々悪になってきている……と思った。
どう軌道修正を図れば良いものか…アスカは3人の会話を聞きながら、機会を窺った。

「ポリジュース薬ってなに?」
「スネイプが数週間前に授業で話してたじゃない。ベルなら覚えてるでしょう?」
「え、そりゃあ覚えとるけど…あれは──…」

ポリジュース薬は、上級生になって作る魔法薬だ。
その製造法も、下級生では見ることが出来ない図書室の閲覧禁止の本棚にある。
どうやってそれを見るつもりなのだろうか?、とアスカは、口を噤む。

「ベルが言いたいことは分かるわ。どうやって閲覧禁止の棚を見る許可証を貰うか、でしょう?」
「そう。何か良い策があるの? それに、どこでポリジュース薬を作るの? 1日やそこらじゃ作れないよ? 皆にばれないように寮の部屋でなんて作れないし…それに、材料はどうするの?」

実をいえば、ポリジュース薬なら作り方を覚えているので本など見なくても材料さえあれば作れる。
それを言わないのは、二年生のアスカが作り方を本も見ずに作れるのはおかしいことと、3人に無理だと意識させ、諦めさせる為だ。
だが、ハーマイオニーもロンもハリーもそれくらいでは諦めなかった。

「簡単に許可証を出してくれるだろう人を僕、知ってる。うまくのせれば、簡単さ」

ロンがニヤリと笑った。

「必要な材料も場所も、本を見てから探せばいい」
「何としてでも、マルフォイから聞き出すんだ」

アスカは、顔が引き攣るのを隠しておけなかった。

















To be Continued.