「ハグリッド、ひどいじゃない。あたし達もうウンザリしてるのよ?」
「すまんすまん、だがお前さん達がそんな事をせんというのは分かっとる。ロックハートに言ってやったわ。ハリーもベルもそんな必要ねえって。何もせんでもハリーはやっこさんより有名だってな」
「あらまあ」
「ロックハートは気に入らないって顔したでしょう」
アスカは面白そうにニヤニヤと笑い、ハリーは顎を擦りながら体を立て直して問う。

「あぁ、気に入らんだろ」

ハグリッドの目がいたずらっぽくキラキラと輝く。

「それから、俺はあんたの本などひとっつも読んどらんと言ってやった。そしたら、帰って行きおった」
「成程ね」

アスカは合点がいったと頷く。
先程聞こえたロックハートとハグリッドの話が繋がる。

「俺が育ててるもん、ちょいと見に来いや」

ハリーとハーマイオニー、アスカがお茶を飲み終わったのを見て、ハグリッドが誘った。
四人はハグリッドに続いて小屋の裏にある小さな野菜畑に向かう。
ハグリッドの野菜畑には、それはそれは大きな南瓜が十数個あった。
一つ一つがまるで大岩のようだ。

「よーく育っとろう? ハロウィーンの祭用だ。その頃までにはいい大きさになるぞ」

そう話すハグリッドは幸せそうだ。

「肥料は何をやってるの?」

ハリーの問いに、ハグリッドは辺りを見回し、誰も居ないことを確認して、言い辛そうに口を開いた。

「その、やっとるもんは……ほれ…ちーっと手助けしてやっとる」

ハリーとアスカは、小屋の裏の壁に、ハグリッドのピンクの花模様の傘が立てかけてあるのに気付いた。
アスカは、その傘の軸が何で出来ているのか知っている。
だが、ハグリッドは昔にとある事件があり、三年生の時にホグワーツを退学になっており、ソレを持つことを許されていない。
どうやらハリーも勘付いているようだったので、アスカはソッと人差し指を立てると自分の唇に宛てて、聞いてはだめよと伝える。
ハリーは小さく頷いた。
聞いても答えてくれないし、とハリーは苦笑いを溢す。

「肥らせ魔法だわ。ハグリッドったら、とっても上手にやったわよね」

ハーマイオニーが半分非難しているような、半分楽しんでいるような言い方をした。

「お前さんの妹もそう言いおったよ」

ハグリッドはロンに向かって頷いた。

「つい昨日会ったぞ。ぶらぶら歩いているだけだって言っとったがな、俺が思うに、ありゃこの家で誰かさんとばったり会えるかもしれんと思ってたんだろう」

ハグリッドはハリーにウィンクして続ける。

「俺が思うに、あの子は欲しがるぞ…お前さんのサイン入りの―――…」
「やめてくれよ」

ハリーが複雑な表情でそう言うと、ロンはプーッと吹き出し、そこら中に蛞蝓を撒き散らした。

「気ーつけろ!」

ハグリッドは大声をだし、大切な南瓜からロンを引き離す。

「そろそろお昼だし、戻りましょうか」
「そうね」

アスカが、そう切り出せば、ハーマイオニーもハリーも頷く。
ハグリッドにさよならを言い、四人は城へと歩きだした。
道中、ロンが時々しゃっくりをしたが、小さな蛞蝓が二匹出てきただけだった。
ロンの顔色も正常に戻ってきているし、どうやら治まってきているらしい。
そんな事を考えていたのはアスカだけではなかったらしく、ハーマイオニーと目があい、二人は微笑みあった。

「ポッター、ウィーズリー、そこにいましたか」

ひんやりした玄関ホールに足を踏み入れた途端、声が響いた。
視線を上げたアスカの目に映るマクゴナガルの表情は険しい。

「二人とも、処罰は今夜になります」

(処罰……あぁ、例の空飛ぶ車の)

アスカは一瞬きょとんとしたが、すぐに思い当たり苦笑いした。

「先生、僕達何をするんでしょうか?」

ゲップをなんとか押し殺してロンが問うと、マクゴナガルの視線がロンを捉える。

「ウィーズリー、貴方はフィルチさんと一緒にトロフィー室で銀磨きです。あぁ、魔法はダメですよ。自分の力で磨くのです」
「そ、そんな!」

ロンは絶句した。
フィルチと密室でマンツーマンで銀磨き…アスカは心中で合掌した。
だが、良く良く考えてみれば、ロンの杖が使い物にならないので、魔法を使わないというのは良かったのではないかと思える。

(あの杖で銀磨きしたら、余計時間かかりそうだものね)

「ポッター、貴方はロックハート先生が、ファンレターに返事を書くのを手伝いなさい」
「えーっ、そんな…」

アスカはマクゴナガルの言葉に、絶句した。
ハリーは絶望的な声を出し、自分もトロフィー室の方ではいけないのかと頼み込む。
だが、マクゴナガルは眉を釣り上げて却下した。

「ロックハート先生は、貴方を特にご指名です。良いですか、二人とも、8時きっかりに」

ハリーとロンはガックリと肩を落とし、俯きながら大広間に入って行く。
アスカは、特にハリーに同情するように声をかけたが、ハーマイオニーは、「だって校則を破ったんでしょ」という顔をして3人の後ろをついてきた。
ハリーもロンも、自分の方が最悪の貧乏籤を引いてしまったと考えているようで、お腹が空いている筈なのに、2人とも食欲がわかないようだった。

「フィルチは僕を一晩中放してくれないよ。魔法無しだなんて! あそこには銀杯が100個はあるぜ。僕、マグル式の磨き方は苦手なんだ」
「ロン、元気を出して。あの杖を使って銀磨きをしてたら、一晩中どころか、きっと明日一日中かかってしまってたよ」
「あ―――〜…そうかも知れないけど、それでも堪らないよ」

ロンは苦い顔をしたが、すぐに憂鬱な顔に戻り、自分の皿に取り分けたシェパード・パイをフォークで突つく。

「いつでも代わってあげるよ。ダーズリーの所で散々訓練されてるから」

ロンに負けず劣らずな虚ろな声をハリーが出した。

「ロックハートに来たファンレターに返事を書くなんて……最低だよ……」

これには、アスカも同意見だった為、何のフォローもいれてあげる事が出来ずアスカはただハリーの背を優しく撫でた。

土曜の午後は、まるで溶けて消え去ったように過ぎ、あっという間に8時はあと5分後に迫っていた。
アスカとハーマイオニーに送り出され、ロンはトロフィー室へ、ハリーはロックハートの部屋へ向かった。
ハリー達を送り出したアスカは、談話室で予習復習しているハーマイオニーの向かいのソファーに座り、スケッチブックを取り出す。
まだ何も描かれていないページをめくり、鉛筆を走らせる。
描くのは、目の前のハーマイオニーだ。
アタリをつけ、最初は大まかに、それから細部を描いていく。
人物画は久々だった。
友人を描くのはとても楽しく、没頭していて、後ろから覗き込んで見られているのにも気付かず、鉛筆を走らせていた。
気付いたのは、ハーマイオニーだった。

「――あら? フレッド、ジョージじゃない。貴方達が静かなんて珍しい…どうかしたの?」
「!?」

ハーマイオニーの言葉に、アスカは瞬時にバッとスケッチブックを抱き抱え、後ろを振り返る。
その勢いに驚いたのか、双子が短く声をあげた。

「いやー、ロンから聞いてはいたけど、上手いなー」
「俺達の落書きとはエライ差だよ。本格的。ハーマイオニーそっくり」
「え、ベル私を描いていたの?」
「あー…うん。勝手にごめん」

双子に素直に褒められ、うっすらと朱色に染まった顔をスケッチブックで半分隠しながらアスカはハーマイオニーを窺い見る。
その眉が下がっているのにハーマイオニーは気付き、ブンブンと頭を左右に振る。

「まさか! とっても嬉しいわ! 見せてくれる?」
「うん」

差し出したスケッチブックをハーマイオニーは受け取り、描かれた絵を見て、感嘆の声を洩らした。

「――素敵…風景画は何回か見せて貰ったことがあるけれど、それとは雰囲気が全然違うのね。柔らかくって、暖かい………私、こんなに美人かしら。なんだか恥ずかしいわ。とっても嬉しいけれど」
「ハーマイオニーは綺麗だよ」
「!、ベル……ッ!!」

ハーマイオニーは、感極まって目に涙を浮かべて、アスカを見た。
アスカは恥ずかしそうにしながらも微笑む。

「ベルは天然だ」
「天然のタラシだ」

盛り上がっているハーマイオニーとアスカを呆れたような感心したような複雑な面持ちでフレッドとジョージは各々呟いた。

「俺達より女の子にモテるんじゃないか?」
「そうかも。この前もジニーを助けて一年生の心鷲掴みにしてたし」
「そうだな――――…って、そうだ! 忘れてた!」

突然声を大にして手を打った双子に、アスカとハーマイオニーは怪訝そうに視線をよこした。

「な、何? どうかしたの?」
「本来の目的忘れてた!」
「ベル、ハーマイオニー、ジニーがどこにいるか知らない?」
「「ジニー?」」

アスカとハーマイオニーは、顔を見合わせる。

「ハーマイオニー知ってる?」
「知らないわ。ベルは?」

知らない、とゆるゆると頭を振るアスカに双子は肩を落とした。

「部屋にいるんじゃないの?」
「……ていうか、二人はそんなの簡単に見付けられるんじゃないの?」

例の地図を使えば、と言葉に出さずに言えば、双子は苦い顔をしてみせた。

「パーシーがジニーを探しているようなんだけど、俺達も一緒に探せって巻き込まれてさ」