だが、ジニーが倒れるよりも早く、アスカの手がジニーの身体を支えた。

「大丈夫? ホグワーツの階段は、消える階段も多いから気をつけて」
「――あ…ありがとう…」

キョトンとしながらも頷くジニーに優しく微笑み、アスカはジニーの頭を撫でた。
何があったのかまだ解っていないジニーの手を引いて足を取られた段を跨ぐのを助ける。

「貴女達も、気を付けてね」

ジニーとアスカのやり取りを見ていた一年生達に言うと、一年生達はコクコクと頷いた。

「相変わらずのフェミニストだな、ベルは」
「見ろよ、ジニーのあの目」
「まるで恋する乙女だ」

そう言って、双子は喉で笑う。
そんな会話がされていたとは露知らず、アスカはジニーの手を引いて、『太った婦人』の油絵まで来た。
女生徒の監督生が居て、合言葉を教えてもらい寮の中に入った。
談話室の中では、パーシーが何やら演説しているが、大して興味のないアスカは、ハーマイオニーを探して見回すが、姿がない。
ハリーとロンの姿もない。
探している間に全員が中に入ったのか、先程太った婦人の前に居た女生徒の監督生が入ってきた。

(もしかして、一人で探しに行っちゃった?)

アスカは、自分も探しに行こうかと踵を返せば、目の前に双子がにんまり顔で立っていた。

「やあ、ベル」
「俺達と話でもしようぜ」
「い、いや…あたしは……」
「わぁ、素敵! 私も一緒しちゃダメ…かなぁ?」

双子の声が聞こえたらしいジニーに、キラキラした瞳でお伺いをたてられ、アスカは言葉を詰まらせた。
フェミニストのアスカが、可愛い女の子を無下にできるはずがないのだ。
狙っていたのか、結果オーライなのか、双子はニヤニヤと笑うばかり。

「勿論、良いに決まってるじゃない」
「本当? 嬉しいっ、ずっと貴女とお話してみたかったの!」

頬を朱色に染めて、照れながらも嬉しそうに微笑むジニーに、アスカはきゅんと胸を貫かれた。

(何この子! 可愛いんですけど!)

「あー…ジニー、悪いんだけどさ」
「え?」
「パーシーが呼んでる」

双子が示した先で、パーシーが「一年生は集まって!」と集合をかけていた。
どうやら部屋割りを発表するらしい。
ジニーは目にみえて肩を落とした。

「ジニー、また今度お話しましょう。ね?」

優しく髪を撫でれば、ジニーは、約束ね、と言って集まっている一年生の輪に加わった。
その背を見つめていると、ポン、と両肩を叩かれる。

「「じゃあ、行こうか」」
「…………………………チッ」

アスカは舌打ちを隠さなかった。

(全部狙ってやったな、この双子)

アスカは、質問責めに合う日がとうとうきたか、と深い溜め息を吐いて、双子に連行された。





それから漸く解放されて、部屋に戻ってみたがハーマイオニーは戻って来てなかった。
同室者に聞いたが、大広間で歓迎会が終わったあとから見ていないと言われた。

アスカは、談話室にもいない友人を探すべく出入口から這い出た。
すると、

「あ、」
「…あ!」
「ベル!」

そこでちょうどタイミング良く、ハリーとロンと出会った。

「ああ、良かった! 僕達、新しい合言葉を知らなくて、どうしようかと思ってたんだ」
「二人が無事で良かった。新しい合言葉は…「ハリー! ロン! ベル!」…ハーマイオニー」

アスカが、合言葉を教えようとした時、ハリー達の後ろの方から、急ぎ足でハーマイオニーがやって来た。
アスカはニッコリと手を上げるが、ハリーとロンはハーマイオニーの表情に、何かを察し、身を強張らせた。

「やっと見付けた! いったい何処に行ってたの? 馬鹿馬鹿しい噂が流れて―――誰かが言ってたけど、貴方達が空飛ぶ車で墜落して、退校処分になったって」
「うん。退校処分にはならなかった」

ハリーはハーマイオニーを安心させようとしたのだろう。
だが、それは失敗だった。

「まさか、本当に空を飛んでここに来たの?」

ハーマイオニーは、まるでマクゴナガルのような厳しい声で聞いた。
先程まででうんざりするほどお説教をくらった二人は、顔を顰めた。

「お説教はやめろよ」
「ちょっとロン、言い方!」
「ベル、新しい合言葉教えてくれよ」
「……『ワトルバード』よ」

アスカはイライラしている三人に、困ったような、呆れたような、複雑な気持ちでいた。

「もう、話を逸らさないで」

だがハーマイオニーの言葉は、最後まで続かなかった。
太った婦人の肖像画がパッと開くと、突然ワッと拍手の嵐があり、かき消されたのだ。
驚く四人に構わず、何本も腕が伸びてきて、ハリーとロンをあっという間に部屋の中に引っ張り入れた。
グリフィンドール寮生は、全員まだ起きていた。
談話室に皆揃っていて、どうやら二人の到着を待っていたらしい。
アスカとハーマイオニーは、二人で穴をよじ登ってハリー達の後に続いた。

「やるなぁ! 感動的だぜ! なんてご登場だ! 車を飛ばして『暴れ柳』に突っ込むなんて、何年も語り草になるぜ!」

リー・ジョーダンが興奮したように叫ぶと、皆がそれぞれ頷く。

「良くやった!」
「凄いよ、ハリー! ロン!」

皆が口々にハリーとロンを称える。
誰かがハリーとロンの背中を、ポンポン叩く。
ロンは決まり悪そうに笑いながら、頬を紅潮させている。
だがハリーは、はしゃいでいる一年生達の頭の向こうに、不機嫌な顔をしているパーシーに気付いた。
パーシーは、ハリー達に十分近付いてから、叱りつけようと二人へ近付いてくる。
ハリーはロンの脇腹を小突いて、パーシーの方を顎でしゃくった。
すぐに察したロンは、「ベッドに行かなくちゃ。ちょっと疲れた」と言って、ハリーと二人で男子部屋のあるドアへ向かう。

「お休み」

ハリーは、パーシーとおなじように顰めっ面をしているハーマイオニーと、困ったように眉を下げているアスカに呼びかけた。

「お休みハリー、ロン」

アスカは苦笑いでそう返事をしたが、ハーマイオニーは返事をしなかった。
アスカとハーマイオニーは、背中をバシバシ叩かれながらドアに向かう二人を黙って見ていた。
二人に続いて、同室であるシェーマス、ディーン、ネビルがドアに向かう。

「ハーマイオニー、あたし達も部屋に戻ろうか」
「……そうね」

まだイライラしているらしいハーマイオニーの様子に、アスカは女子部屋に続くドアへ向かいながらハーマイオニーに気付かれないように息を吐いた。

(明日、ハリーとロンに事の顛末を聞かなくちゃ)

ドアから螺旋階段へ入ると、静けさが戻ってきた。
二人で上へあがり、去年使っていた部屋の前に辿り着く。
ドアには、“二年生”と書いてあった。
部屋のメンバーに変わりはないらしい。
アスカは部屋のドアを開けた。















To be Continued.