ゆっくりとアスカに杖先を向け、部屋の主は口端を上げる。
「さあ、フィーレンの力を我が手中に」
「っ!?」
部屋の主の物とは別の声が響いた。
滑らかに絡み付いて離れない蛇の様な声。
舌舐めずりをする肉食獣の様な息遣いを感じ、アスカは背筋を凍らせた。
身体が粟立ち、動けない。
「解っております、御主人様」
「早くしろ」
部屋の主との会話を聞きながら、アスカは辺りに視線を巡らせる。
だが、どこにもその姿は見えない。
声はすれども、姿はない……一体どういうことだろうか。
アスカは、混乱する。
「ど、どこにいるの!?」
「……慌てなくともすぐに逢えよう。今宵、私は『石』を手に入れ、復活するのだ」
「! そんなこと、あたしがさせない!!」
アスカは、ギ、と姿の見えない声の主を探しながら宙を睨む。
「杖もないのに、どうやって?」
部屋の主が嘲笑うかのようにアスカに歩み寄る。
杖先は、ずっとアスカを指したままだ。
「…………杖なんかなくたって…」
アスカは、悠然と微笑む。
「魔法は使える!!」
アスカが手を振り上げると、部屋の主の身体が吹き飛んだ。
壁に叩き付けられた主は、部屋に飾られていた十字架やニンニクと共に床に落ちる。
「……っ…何故、1年生の貴女が…こんな……」
「これでも、ダンブルドア校長の娘ですから。養女だけど」
膝を着く主の困惑した問いに答えながら、落ちた自分の杖を拾う。
「甘く見ないでよね」
言って、ピ、と杖先を突き付ける。
形勢逆転。
「ククク……面白い、私が相手をしよう。お前では役不足だ」
「で、ですが御主人様はまだ…」
「黙れ。――…フィーレンの娘、私を見るがいい」
会話を黙って聞いていたアスカは、そう言われて怪訝に顔を歪めた。
「私を見ろって……何処にいるのかも解らないのに…」
杖先の部屋の主に注意を置きながら、アスカはまた室内を見回す。
「ククク…――――――――お前の後ろだ」
「え?」
突然低くなった声にゾクリと背筋を震わせたアスカは、弾かれた様に背後を振り返った。
だが、そこには誰もいない。
(ッ、しまった!)
気付いた時には遅かった。
グラリ、と世界が反転する。
「『ノルン』は手に入れた」
床に倒れるアスカを見下ろす、部屋の主。
その手には、しっかりと杖が握られている。
「あとは、『石』だけ…」
意識を失う寸前、アスカは自分を見下ろし、三日月形に笑う赤い眼を見た気がした。
To be Continued.
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