アスカが脱力してると、ロンが言葉を探すように暫く言い淀んだ後、緊張したようにグッと顔を引き締め、口を開いた。

「ベルって、どんな男が好きなの?」
「はい!?」
「「ロ、ロン!?」」

突然、好みの男性像をあろうことかロンから問われ、アスカは声が裏返った。
これには一緒に座って食事をしていたハリーとハーマイオニーも目を丸くした。
ロンは、セブルスとクィレルがアスカを好きで、取り合っているのではという話が上がった時から、ずっと気になっていたのだ。
アスカは、二人のロリコン教師の事をどう思っているのだろう?、と。
それはハリーとハーマイオニーとて同じだったが、そこは自制して我慢していたが、ロンは限界だった。
好奇心には勝てなかった。

「ど、どんなって……何? 急に」

だが、アスカがそんなロンやハリー達の心中を知る由もなく…ただ、混乱する。

「あー…いやさ、ちょっと気になってさ、女の子ってどんな奴が好きなのかな、って…」

しどろもどろに言い訳を探しながらのロンに、アスカはそう?、と言って考え始める。

「ほら、背の高い奴とか勉強ができる奴とか、スポーツが得意だとか、と、年上とか年下、とか…」
「う〜ん…」

唸りながら考えているアスカにロンが例えばだよ、と言いながら、例を挙げていく。

「黒が似合う人、とか…」
「う〜ん……」
「タ、ターバン巻いてる人、とか…」
「う〜ん…………ん?」

(ターバン?)

ハタ、とアスカが唸るのをやめて顔を上げる。

「なんでそこでターバンが出て来るの?」
「え? ぼ、僕、ターバンなんて言った?」

汗をかきながらキョトンとするロンからアスカは視線を外し、ハリーを見る。

「言わなかった?」
「言ってないよ。聞き間違えたんじゃない?」
「………そう」

腑に落ちなそうにしていたが、やがてアスカは納得した。

「考えたんだけど、そういうのはあたしじゃなくてハーマイオニーに聞いた方がいいんじゃないかな? ねぇ、ハーマイオニー?」
「「「ベルじゃないと駄目!」」」

これぞというアスカの提案は、何故か3人に打ち消されてしまった。

(な、なんか……怪しい…)

アスカは不穏な3人の様子に、最近の不可思議な行動も重ね、顔をス、と引き締める。

「……皆、何か、あたしに隠してない?」

目を細めて問うアスカの視線から目を合わさないようにと逃げながら、3人は左右に首を振る。

「…………………」
「「「…………………」」」

4人の間に重苦しい沈黙が流れる。
疑い、窺うようなアスカの冷ややかな視線に耐えていたハリー達だったが、暫くしてアスカが折れて、小さく息を吐いた。

「もういいよ。無理には聞かない。ハーマイオニー、図書館に行くんでしょう? だったら夕食位は楽しく食べたいからね」
「「そうだね!」」
「あら、どういう意味よ?」

力強く頷くハリーとロンに、ハーマイオニーの顔が険しくなる。

「「べ、別に……」」
「ハーマイオニー、このサラダ食べる? 美味しいよ」
「ありがとう、ベル。勿論いただくわ!」

ハーマイオニーは、『賢者の石』だけに関心を持っていたわけではなかった。
復習予定表を作り上げ、ノートにはマーカーで印をつけ始めた。
ハーマイオニーだけが勉強するならば、3人は気にもならなかったのだが、どうやら試験対策の復習らしく、ハーマイオニーは3人にも自分と同じことをするようにしつこく勧め、自由時間の殆どを引きずられるように図書館に連れて行かれ、ハーマイオニーに付き合うように復習に精をだすことになった。
勿論、アスカの大嫌いな勉強をする為だ。
これにはハリーとロンだけではなく、アスカも参った。
試験はまだ十週間も先だ、というロンに、ハーマイオニーはもう十週間に迫っている、と返し、時間がない、と慌てた様に勉強に没頭していた。
更に有り難くないことに、先生達もハーマイオニーと同意見のようで、山のような宿題が出て、復活祭の休みは、クリスマス休暇程楽しくなかった。

(うぅう…勉強嫌だな〜…)

ハーマイオニーに見えないようにアスカは溜め息を吐いた。
食事を済ませ、図書館へとハーマイオニー以外は重い足取りで向かう。
定位置になりつつある席で4人で座ると、ハーマイオニーだけ張り切って勉強を始める。
アスカも嫌々ながらも宿題を済ませようと羽根ペンを羊皮紙に走らせていたが、暫くして同じように宿題をしていたロンが根を上げ、羽根ペンを投げ出した。
アスカがロンに視線を上げると、視界の隅に大きな身体が本棚と本棚に挟まれ、窮屈そうにコソコソと見え隠れしているのに気付いた。

「……ハグリッド?」
「ハグリッド! 図書館で何してるんだい?」

ロンも同じように見つけて、声を上げる。
その声に、ハグリッドは怖ず怖ずと罰が悪そうにモジモジしながら現れた。
モールスキンのオーバーを着たハグリッドは、明らかに場違いだった。

(背中に何か隠してる?)

アスカは訝しげに、どこか挙動不審なハグリッドを見つめる。
ハリーとハーマイオニーもそんなハグリッドを見る。

「いや、ちーっと見てるだけだ」

そう言った声が上擦って、忽ち皆の興味を引いた。

(怪しい…)

「お前さん達は何をしてるんだ? まさか、ニコラス・フラメルをまだ探しとるんじゃないだろうな」

ハグリッドが突然疑わしげに尋ねた。

「そんなのもうとっくの昔に分かったさ」

ロンが今更何を言うんだと意気揚々と言う。

「それだけじゃない。あの犬が何を守っているかも知ってるよ。『賢者のい―――「ロン!」「シーッ!」…ムグ…」

アスカは咄嗟にロンの口を両手で塞ぎ、ハグリッドは急いで周りを見回した。

「大声で言い触らしては駄目!」
「ベルの言う通りだ。お前さん達、まったくどうかしちまったんじゃないか」

アスカは分かった、分かったと頷くロンの口から手を退かす。

「ちょうど良かった。ハグリッドに聞きたいことがあるんだけど。クィレルとスネイプの他に、誰があの石を守るのに協力しているの?」
「ハ、ハリー!」

今回、アスカの手は間に合わなかった。

「な、なんでそんな事まで知っちょるんだ? ――あぁ、もう…いいか? 後で小屋に来てくれや。ただし、教えるなんて約束はできねぇぞ。ここでそんな事を喋りまくられちゃ困る。生徒が知ってる筈はねーんだから。俺が喋ったと思われるだろうが……」
「じゃ、後で行くよ」

ハリーの返事を聞いて、ハグリッドモゾモゾと出て行った。

「ハグリッドったら、背中に何を隠してたのかしら?」

ハーマイオニーが考え込んだ。

「見てくる」
「ハグリッドがいた書棚かい? 僕も行くよ」

席を立ったアスカにロンも続く。
アスカは、ハグリッドがコソコソと見ていた書棚を見て、顔を険しくした。
隣でロンが息を呑む。

(ハグリッド、貴方、まさか―――…)

「ハリー達にも教えなきゃ!」

ロンが書棚から本をどっさり引き抜き、ハリー達の元へ戻って行く後を追いながら、アスカは悪い予感がしていた。

(ハグリッドは、昔からドラゴンを飼うのが夢だって…そう、ハグリッドから聞いた事がある)

書棚にあったのは、全てドラゴン関係の書籍だった。
ロンが『ドラゴンの飼い方』というタイトルの本を机に広げて、ハリー達に見せる。

「初めてハグリッドに会った時、ずーっと前からドラゴンを飼いたいと思ってたって、そう言ってたよ」
「でも、僕達の世界じゃ法律違反だよ。1709年のワーロック法で、ドラゴン飼育は違法になったんだ。みんな知ってる。もし、裏庭でドラゴンを飼ってたら、どうしたってマグルが僕らの事に気付くだろ―――どっちみちドラゴンを手なずけるのは無理なんだ。狂暴だからね。チャーリーがルーマニアで野生のドラゴンにやられた火傷を見せてやりたいよ」
「だけど、まさかイギリスに野生のドラゴンなんていないんだろう?」
「いるよ」
「いるともさ」

ハリーの問いにアスカとロンがサラリと答えた。

「ウェールズ・グリーン普通種とか、ヘブリディーズ諸島ブラック種とか」
「うん。そいつらの存在の噂を揉み消すのに魔法省が苦労してる。もし、マグルがそいつらを見つけてしまったら、こっちはその度にそれを忘れさせる魔法をかけなくちゃいけないんだ」
「じゃ、ハグリッドは一体何を考えてるのかしら?」

ハーマイオニーの問いに、答えられるのはハグリッドだけだった。

(ハグリッド、ドラゴンは諦めてってあんなに言ったのに…)

学生時代にアスカ達は夢を語るハグリッドを何度も諦めるように諭したのだが、ハグリッドは諦めきれなかったようだ。
ハグリッドの小屋を訪ねたアスカは、真っ先に暖炉の炎の真ん中の薬缶の下に大きな黒い固まりを見つけて、頭を抱え込んだ。
ハグリッドの小屋はカーテンが全部閉まっており、中は窒息しそうなほど暑かった。
こんなに熱い日だというのに、暖炉で轟々と炎が上がっている。
まるでサウナにいるようだった。
アスカ達はこんな所に長居はしたくない、と早々とハグリッドから聞きたいことを聞き出す。
最初は頑なだったハグリッドだったが、ハーマイオニーが上手くおだてると、上機嫌で話しだした。