「何を話しているのかしら?」
「きっとよくやったって褒めてるんだよ。あの人もグリフィンドール出身だから……内心では贔屓にしてるんだ」
話の最後は周りに聞こえないようにこっそりと喋ったが、そんな必要もないほどみんな騒いでいて、誰もアスカ達の話を聞いている者は居なかった。
(―――…あらら)
アスカはセブルスがグランドに苦々しげに唾を吐いたのを見て、やれやれと息を吐いた。
(セブルスったら、本っ当に大人げない)
アスカは、ロンを探し始めたハーマイオニーからサッと離れて、セブルスに声をかけようとグリフィンドールの寮生の間を縫うように通り抜けた。
「Ms,ダンブルドア?」
「!っ」
セブルスを探していると、不意に後ろから声をかけられた。
ビクリと肩が揺れる。
振り返れば、ターバンを巻いた闇の魔術に対する防衛術の教授、クィレルだった。
「クィレル……先生…?」
アスカは思わず怪訝に眉を顰めた。
いつものあのオドオドしたクィレルとは別人のように感じたのだ。
「どうしたんですか、こ、こんな場所で……今頃グリフィンドールは大騒ぎの真っ最中なのでは?」
確かに、肩車をされているハリーの姿が競技場を抜け出す際にチラリと見えた。
「あたしは…ちょっと、えぇっと……気になる事があって…」
「き、気になる事…ですか?」
クィレルが首を傾げる。
(セブルスに会いに行く、だなんて言えないし…)
「おじいちゃんに…ダンブルドア先生に会って話をしたくて…」
迷ったアスカは、ダンブルドアの名を出した。
その名をだせば、深くは聞かれないだろうとふんだのだ。
「そうですか」
予想通り、クィレルは納得したように頷いた。
「で、では、私がお送りいたしますよ」
「え!? クィレル先生が?」
「あ…わ、私なんかとはご一緒したく、ない…ですよね」
アスカは、クィレルに纏わり付く臭いがどうにも苦手だった。
気分が悪くなる。
できれば余りご一緒して欲しくない。
というかご遠慮願いたい。
だが、先生を無下にすることも出来ない。
(……あ、そういえば、セブルスに正体バレたってまだ言ってないな)
ダンブルドアのことだから、気付いているかも知れないが、報告はしなければならないだろう。ちょうど良い機会かもしれない…アスカはそう考え、暫く我慢することに決めた。
「いいえ、そんな事ありません」
「よ、良かった。では行きましょう」
そう言ってクィレルはアスカを促し、並んで歩き出した。
会話をしているとゾワリとたまに肌が粟立ったが、堪えて顔に出さないようにした。
「素敵なピアスですね」
「!」
「見る角度に寄って色が変わるみたいだ……何と言う石ですか?」
クィレルの問いに、アスカは苦笑いを零す。
「すみません、先生。これは母の形見で、どういったものなのかあたしにはよく解らないんです」
「そ、そうとは知らず…」
「良いんです。気になさらないで下さい」
申し訳なさそうにオドオドするクィレルに、微笑んでみせる。
すると、クィレルはアスカのピアスにそっと手を伸ばしてきた。
「…っ、」
「クィレル!!」
「!?」
バリトン声が響いた。
見ればフードを被った人物が急ぎ足で近寄ってきた。
クィレルの手が、ピアスに触れる寸前で止まり、戻って行く。
アスカにはフードの人物が誰かすぐにわかった。
声は勿論だが、足を引きずっていたからだ。
「セ、セブルス」
「汚い手で彼女に触るな!」
「セ…スネイプ先―――…わぁっ」
セブルスはアスカの傍まで来るとアスカの腕を掴み、強引に自分の背後に隠した。
それからクィレルに掴みかからん勢いで口を開く。
「クィレル、貴様…彼女に何をするつもりだった!?」
「セ、セブルス…そんな……私は、な、何も…」
「嘘を吐くな!」
「スネイプ先生、クィレル先生はあたしを校長室に連れていって下さる途中で…」
「お前にとってホグワーツは言わばもう庭のようなモノだろう? 隠し通路まで知っているではないか」
「それはその―――…そう、ですけど……」
クィレルに助け舟を出そうとしたアスカだったが、一蹴された。
(セブルス、何でそんなに怒ってるの? クィレル先生がそんなに気に食わないの?)
アスカが不満を顔にだせば、セブルスはそれを見て一つ息を吐いた。
「―――――…Ms,ダンブルドア、お前はさっさと城へ戻れ。もう夕食の時間だ」
「…………………………………………………はい…」
食い下がろうとしたアスカだったが、セブルスの表情に口を噤み、頷いた。
セブルスはずれたフードを被り直し、クィレルを引きずるようにして禁断の森へと入って行った。
アスカはセブルスに戻れと言われたが戻らず、そっと二人の後を追った。
そして、一部始終を見ていたハリーもまた、箒置き場に戻すはずだったニンバス2000に跨がり、空からセブルスとクィレルを追うのであった。
To be Continued.
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