(間違ってるって、2人は何も知らないのに、どうしてそんなことが言えるんだろう?)
考えたことが顔に出たのか、双子は笑う。
「聞かなくたってわかるさ」
「ベルは間違っちゃいない」
「だいたいアイツは人の意見をちゃんと聞かないんだ」
「そうさ! アイツはいつだって俺達の有り難い教えを聞かないんだ」
「「馬鹿な弟さ」」
「ふふふ、ありがとう。でも貴方達の弟君は、あたしの大事な友達なの。だから変な事を吹き込むのはやめてね」
「「ややっそれはないよ、ベルー!」」
おどけたように言う双子とアスカは笑いあった。
(この2人、あたしを元気付けてくれてるんだ)
「ありがとう」
アスカはもう一度双子に笑顔を向けた。
ハリーとロンがアスカを避けるようになって数日が過ぎた。
グリフィンドール対ハッフルパフのクィディッチの試合が明日へと迫っていた。
ハリーはセブルスの審判でも構わずに出ると授業中に言っていたのを聞いた。
(セブルスは、きっとハリーを傍で護るつもりで審判に名乗りをあげたんだ……でも、ハリーはセブルスを疑っているから、とても不安そう)
だが不安なのはハリーだけではないらしく、フレッドやジョージ、さらには他のチームメイトも、不安感は拭えていないようだ。
アスカはセブルスには悪いと思いながらも、仕方ないと苦笑いし、そんなハリー達の不安感を一気に振り払う事の出来る人物を用意した。
試合当日、ちゃんと来賓席にその姿があることをネビルの隣に座って確認していると、ロンとハーマイオニーが話をしながらやって来た。
ロンはアスカを見て顔を歪めたが、ハーマイオニーがアスカの隣に座ったので、ロンは苦い顔をしたままネビルの逆隣に座った。
「ねぇ、なんで二人ともそんな顔しているの? もしかして、ハリーが怪我でもした?」
深刻な顔をしているロンとハーマイオニーを不思議そうにネビルが聞いた。
「怪我なんてしていないわ」
「怪我した方がマシだよ」
「え?」
ネビルが訳がわからずにキョトンと首を傾げる。
その隣でアスカは2人の手に握られているものを見て息を吐く。
「2人とも杖をしまったら?」
ギクリ、と2人の肩が揺れ、ネビルが驚いて声を上げた。
「ハリーが危なくなったら、先生に何か呪文をかけるつもりなんでしょう? 『足縛りの呪文』とかかな?」
「それって、僕がマルフォイにかけられたやつだ!」
図星だった。
練習していた呪文まで当てられ、ハーマイオニーは驚き、ロンはカンに障ったようだ。
「ベル…気付いてたの?」
「煩いな、君には関係ないだろ? でしゃばるなよ」
「ッ、ロン!」
不機嫌になったロンをハーマイオニーが窘めるように呼ぶ。
だがロンは、フンと鼻息荒くそっぽを向いただけだった。
「――――…今日の試合はグリフィンドールの優勝がかかった大事な試合だから、学校中の人が観戦に来てるみたいだね」
「うん。あ、ほらダンブルドアまで見に来てるよ」
「「え!?」」
話を変えたアスカに頷いたネビルがそう言うと、弾かれたようにロンとハーマイオニーが来賓席を見た。
「本当だ!」
「ダンブルドアだわ!」
あの銀色の髭は間違いようがない。
ロンとハーマイオニーは顔を見合わせて安心したように笑い合った。
(流石、ダンブルドア先生。セブルスと比べたら信頼度が雲泥の差ね)
ダンブルドアを試合観戦に誘った自分は間違っていなかった。
今頃、ハリーもダンブルドアを見つけて余計な不安がなくなればいいけど…と思っていると、選手の入場が始まった。
ハリーはニンバス2000を悠々と操り、落ち着いた顔付きをしている。
代わりにセブルスの顔は不機嫌そうに歪んでいた。
(…あれ?)
アスカは首を傾げる。
(さては…ハリーやグリフィンドールにまた理不尽な意地悪するつもりだったな、あの陰険野郎)
アスカは呆れて、盛大な溜め息を吐いた。
「さぁ、プレイボールだ。アイタッ!」
誰かがロンの頭の後ろを小突いた。
皆が見上げれば、ドラコが金魚の糞のクラッブとゴイルを引き連れ、立っていた。
「ああ、ごめん。ウィーズリー、気がつかなかったよ」
ドラコは、金魚の糞の2人に向かってニヤッと笑う。
「この試合、ポッターはどのくらい箒に乗っていられるかな? 誰か、賭けるかい? ウィーズリー、どうだい?」
ロンは答えなかった。
アスカは、同情的な眼差しでドラコを一瞥して、他の3人と同じように試合を見つめた。
「あ、あの人…」
そこでアスカはハッフルパフのメンバーに見知った顔を発見して驚いた。
(…あれは、確か―――…セドリック・ディゴリー。…ハッフルパフの選手だったんだ。え、しかも…シーカー!?)
ジョージがブラッジャーをセブルスの方に打ったという理由で、ハッフルパフにペナルティー・シュートを与えたところだった。
ハリーとセドリックはスニッチを探して高いところを旋回している。
ハーマイオニーは膝の上で指を十字架の形に組んで祈りながら、目を凝らしてそんなハリーを見つめ続けていた。
「グリフィンドールの選手がどういう風に選ばれたか知っているかい?」
突然、ドラコが聞こえよがしに切り出した。
ちょうどセブルスが何の理由もなくハッフルパフにペナルティー・シュートを与えたところだった。
(セブルスったら……本当に大人げないんだから…)
アスカは溜め息を吐いた。
「気の毒な人が選ばれてるんだよ。ポッターは両親がいないし、ウィーズリー一家はお金がないし……ネビル・ロングボトム、君もチームに入るべきだね。脳みそがないから」
ネビルは顔を真っ赤にしたが、座ったまま後ろを振り返ってドラコの顔を見た。
「マルフォイ、ぼ、僕、君が10人束になっても敵わないぐらい価値があるんだ」
ネビルがつっかえながらもドラコに言う。
アスカは、その言葉に「よく言った!」とにんまりと笑う。
ドラコもおつむの弱い金魚の糞の2人も大笑いしたが、ロンは「そうだ、ネビル、もっと言ってやれよ」と口を出した。
出したのは口だけで、目は試合から離す余裕がなかったが、ネビルを心から応援していた。
「ロングボトム、もし脳みそが金で出来ているなら、君はウィーズリーより貧乏だよ。つまりは生半可な貧乏じゃないってことだな」
ロンはハリーの事が心配で、神経が張り詰めて切れる寸前のようだとアスカには窺えた。
「いい加減に黙りなさい。男の嫉妬は惨めったらしくて聞いているのも堪えられないわ」
「なっ、し…嫉妬だと!? この僕が、ロングボトムなんかに嫉妬しているというのか!?」
「ロングボトム君にも、ロンにもハリーにも、嫉妬しているでしょう? 貴方が持っていない素晴らしいものをみんな持っているから」
「僕が持っていないものなどない!」
「マルフォイ、これ以上一言でも言ってみろ。ただでは……」
「ベル! ロン! 見てっ、ハリーが!」
突然ハーマイオニーが叫んだ。
試合から目を離していた皆が一斉に空を見上げる。
「ハリーッ」
ハリーが突然物凄い急降下を始めた。
その素晴らしさに観衆は息を呑み、大歓声を上げた。
ハーマイオニーとアスカは2人揃って立ち上がり、アスカは拳を握りしめ、ハーマイオニーは指を十字に組んだまま口にくわえていた。
ハリーは弾丸のように一直線に地上に向かって突っ込んで行く。
「運がいいぞ。ウィーズリー、ポッターはきっと地面にお金が落ちているのを見つけたのに違いない!」
ドラコがそんな事を言っていたが、アスカにもハーマイオニーにも聞こえていなかった。
だが、聞こえていたロンはついにキレた。
ドラコが気が付いた時には、もうロンがドラコに馬乗りになり地面に組み伏せていた。
ネビルは一瞬怯んだが、観客席の椅子の背を跨いで助勢に加わった。
「「行けっ! ハリー」」
アスカとハーマイオニーは椅子の上に飛び上がり、揃って声を張り上げた。
ハリーがセブルスの方に猛スピードで突進していく。
ロンとドラコが椅子の下で転がり回っていることも、ネビルがクラッブ、ゴイルと取っ組み合って拳の嵐の中から悲鳴が聞こえてくるのにも、ハーマイオニーもアスカもまるで気が付かなかった。
空中では、セブルスがふと箒の向きを変えた途端その耳元を紅の閃光がかすめて行った。
ほんの数センチの間だった。
次の瞬間、ハリーは急降下を止め、意気揚々と手を挙げた。
その手には金のスニッチが握られていた。
「「やった!」」
スタンドがドッと沸いた。
新記録だ。
こんなに早くスニッチを捕まえるなんて、前代未聞だ。
アスカはハーマイオニーと手に手を取り合い、椅子の上で跳びはね、踊った。
そして最後に2人は喜びに抱き合った。
試合終了のホイッスルが鳴る。
「ロン! ロン! どこ行ったの? 試合終了よ! ハリーが勝った! 私達の勝ちよ! グリフィンドールが首位に立ったわ!」
地上から30センチのところで箒から飛び降りたハリーにグリフィンドールの選手も次々とグランドに降りて来た。
セブルスもハリーの近くに着地した。
青白い顔をして唇をギュッと引き結んでいた。
「あ、見て。ダンブルドア…おじいちゃんが」
アスカに促され、ハーマイオニーが見れば、ダンブルドアがハリーの肩に手を置き、ハリーに微笑んでいた。
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