「私がトロールを探しに来たんです。私……私、一人でやっつけられると思いました。本で―――…あの、本で読んでトロールについてはいろんなことを知ってたので…」

ロンは杖を取り落とした。
アスカもハーマイオニーが言ってることに唖然として目を瞬かせる。

(ハーマイオニーが、先生に真っ赤な嘘をついてる?)

信じられない光景だった。

「ベルが気が付いて、助けに来てくれなかったら、今頃私は死んでました。ベルはトロール攻撃から身を呈して守ってくれて、ハリーは杖をトロールの鼻に差し込んでくれ、ロンはトロールの棍棒でノックアウトしてくれました。三人共誰かを呼びに行く時間がなかったんです。三人が来てくれた時は、私、もう殺される寸前で―――…」

アスカもハリーもロンも、その通りです、という顔を装った。

「まあ、そういうことでしたら……」

マクゴナガルは四人をジッと見た。

「Ms,グレンジャー、なんと愚かしい事を。たった一人で野生のトロールを捕まえようなんて、そんなことをどうして考えたのですか?」

ハーマイオニーは項垂れた。
ハリーとロンは信じられない気持ちでハーマイオニーを見つめた。
あのハーマイオニーが規則を破るだなんて…そんなこと、絶対にしない人間だ。
その彼女が規則を破ったふりをしている。
自分達を庇うために。
それは、ハリーとロンにとってセブルスがグリフィンドールの生徒達に菓子を配り始めたようなものだ。

「Ms,グレンジャー、グリフィンドールから10点減点です。貴女には失望しました。怪我がないならグリフィンドール塔に帰った方が良いでしょう。生徒達が、さっき中断したパーティーの続きを各寮でやっています」

ハーマイオニーは、すごすごと帰って行った。
マクゴナガルは、次いでアスカ達に向き直る。

「先程も言いましたが、あなた達は運が良かった。でも、大人の野生のトロールと対決できる一年生はそうざらにいません。一人5点ずつあげましょう。―――ダンブルドア先生にご報告しておきます。帰ってよろしい」

アスカは、ダンブルドア校長の名前が出てきた時に、マクゴナガルがこちらを見た気がしたが、気付かなかったことにした。
急いで部屋を出るハリーとロンに続いてアスカも寮に帰ろうとしたが、低い声に止められた。

「Ms,ダンブルドア、待ちたまえ」
「……はい?」

ハリーとロンが気付いて足を止める。

「お前達は寮に戻りなさい」
「先生、でもベルは怪我を…」
「貴様に言われんでもわかっている。さっさと帰れ!」

鋭い眼光で睨まれ、ハリーとロンは大急ぎで部屋から出て行った。
だが、アスカはセブルスの言葉に驚いていた。

(わかっている、って…セブルス、あたしの怪我に気付いてたんだ)

「歩けるな?」
「は、はい」
「では、ついて来たまえ」

(嫌だ)

本心は口に出来る筈もなく、アスカは頷いた。

「…………はい」

漆黒のマントを翻し、踵を返し歩きだしたセブルスの後にアスカは続く。
そうしてアスカはあることに気付いた。

(セブルス、足を引きずってる。…怪我をしたの?)

セブルスは微かに左足を引きずっていた。
アスカは眉を下げる。

「入りなさい」

地下教室の教授室まで来たアスカは、約二ヶ月前に座ったソファーに腰を下ろす。

「傷を見せたまえ」
「ぇえ!?」

薬品棚を開け淡々と言ったセブルスに、アスカは固まる。

「い、いえ! だ、大丈夫ですのでお構いなく!」

アスカは慌てた。

(背中をどうやって見せろってんのよ!)

セブルスのスケベ、変態っと内心毒吐きつつ、真っ赤な顔で頭を振るアスカを、セブルスは怪訝に見やる。

「いいから早く見せなさい」
「嫌です!」
「何?」

きっぱりと拒否したアスカにセブルスが眉間の皺を濃くする。

「だって、えっと……その…、怪我は背中で……見せるのは―――…」
「………ふん、そんなことか」

アスカがしどろもどろで言うと、アスカが何故拒否したのか判ったセブルスは鼻で笑った。

(そ、そんなことだとう!?)

「我輩は、幼児体型には興味ない」
「よ…っ」

(幼児体型だとお!?)

アスカの顔が今度は怒りで真っ赤になる。

(そりゃあ確かに今はペッタンコだけど、実際は結構成長したのよ!? 知りもしないで……セブルスのド阿呆ー!!)

「あ、あたしなんかより、ご自分の怪我の手当をされた方がよろしいのではありませんか?」
「……なんだと?」

セブルスの目が軽く見開く。

「怪我してるんでしょう? 左足」

言えば、セブルスはマントで左足が見えないようにさっと隠した。

「そんなもんはしていない。薬はやるからさっさと寮に帰りなさい」
「嘘ですよ。さっきも足を引きずって「Ms,ダンブルドア!」………わかりました」

ドアまで連れて行かれたアスカは、薬を受け取りながらも言い募ろうとした。
だが、セブルスは一喝して黙らせると頷くアスカの目の前でドアをバタンと閉めた。

(素直じゃないんだから…)

「…薬、ありがとうございます。先生もお大事に」

内心で溜息吐いて、ドアの向こうのセブルスにそう言って一礼すると、アスカは寮に帰った。

太った貴婦人の肖像画から寮に入ると、文字通りパーティーが始まっていた。
談話室は人がいっぱいで、ガヤガヤしている。

「うわお」

アスカが楽しそうな生徒達に圧倒されていると、待ち構えていたかのようにハーマイオニー、ハリー、ロンが近寄って来た。

「ベル!」
「良かった、心配してたんだよ」
「大丈夫かい? スネイプに何もされなかった?」

案じてくれる友人達に、アスカは微笑む。

「大丈夫。スネイプ先生から薬を貰っただけだよ」
「え?」
「薬?」
「スネイプから?」
「それって…毒薬?」
「やだなぁ、違うよ。ねえハーマイオニー、後で背中に塗ってくれる?」

青ざめる二人にアスカは笑い、驚いて固まっていたハーマイオニーに向き直る。
ハーマイオニーは、ハッとして頷く。

「後でじゃなくて今にしましょ」
「え、いいの?」
「心配なの!」

アスカを引っ張り、ハーマイオニーは部屋へと促す。
最後にこちらを見ていた二人に、気まずそうだがぎこちなく笑った。
応えるようにして、同じようにハリーとロンも笑う。
それを見ていたアスカは、目を丸くしたがすぐに嬉しそうに笑んだ。

この日以来、ハーマイオニーとハリー、ロンは友達になった。
共通の経験をすることで互いを好きになる、そんな特別な経験があるものだ。
4メートルもあるトロールをノックアウトしたという経験も、まさしくそれだった。
アスカは、ロンにムカついていたことをすっかり忘れ、嬉しそうな同室の友人に微笑みを浮かべた。















To be Continued.