「僕、ベルは怒らせないようにしよう…」
「僕も…」

どちらからともなく言った言葉に、同意する言葉が続いた。

気を取り直そうとハリーは立ち上がり、着替え始めるとロンもノロノロと着替えだした。

「な、わかっただろ? さっきの奴らが純血至上主義」
「うん。あいつとはダイアゴン横丁の洋装店で会って、ちょっと話をしたんだ」

ハリーとロンは上着を脱ぎ、黒い長いローブを着た。
ロンのはちょっと短すぎて、下からスニーカーがのぞいている。

「マルフォイの家族のこと、パパから聞いた事がある。…“例のあの人”が消えた時、真っ先にこっち側に戻ってきた家族の1つなんだ。魔法をかけられてたって言ったんだって。パパは信じないって言ってた。マルフォイの父親なら、闇の陣営に味方するのに特別な口実はいらなかったろうって」

ロンは暗い顔をして言った。
その顔にハリーも黙ってしまった。

そこへノック音が響く。

「着替えた? 次、あたしも着替えたいんだけど、まだダメ?」
「あ、ごめん、ベル。もう終わったよ」
「じゃ、開けるよー?」

言うなりコンパートメントの戸がガラ、と開いた。
アスカとハリー達2人が入れ代わりにコンパートメントに入った。
ハリー達がコンパートメントの外の通路でアスカが着替え終わるのを待っていると、車内に響き渡る声が聞こえた。

「あと5分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていって下さい」

途端にハリーは緊張で胃がひっくり返りそうだったし、ロンは雀斑だらけの顔が青白く見えた。

「ハリー、ウィーズリー君。行こうか」

ローブに着替えたアスカがコンパートメントから出てくると、ポン、と気軽に肩を叩き、アスカは通路に集まる人の群れに加わった。
ハリー達もアスカに習うように続く。

それから汽車は徐々に速度を落とし、完全に停止した。
押し合いへし合いながら列車の戸を開けて外に出ると、小さなプラットホームだった。
もうすっかり日が沈み、夜になっている。
夜の冷たい空気にアスカは身震いした。
懐かしさに顔を綻ばせていると、やがて生徒達の頭上にゆらゆらとランプが近付いて来て、さらに懐かしい声が聞こえた。

「イッチ年生! イッチ年生はこっち! ハリー、元気か?」

ハグリッドは最後にハリーに笑いかけた。

「イッチ年生! みんな揃ったか? 足元に気をつけろ。いいか! イッチ年生、ついて来い!」

歩きだしたハグリッドに続いて、一年生も歩きだした。
滑ったり、躓いたりしながら険しくて狭い小道を、みんなはハグリッドに続いて降りていった。
みんな黙々と歩いた。

「みんな、ホグワーツがまもなく見えるぞ! この角を曲がったらだ!」

ハグリッドが振り返りながら言うと、一斉に歓声が上がった。
その歓声を聞きながら、アスカは懐かしさに目を細める。
狭い道が急に開けて、大きな湖の辺にでた。
湖は夜の闇を吸い取ったかのように黒かった。
向こう岸に高い山が聳え、そのてっぺんに壮大な城が見えた。
大小様々な塔が立ち並び、キラキラと輝く窓が星空に浮かび上がっていた。

「4人ずつボートに乗って!」

ハグリッドが、ホグワーツ城を見つめてぼーっとしている一年生達に声をかける。
岸辺に繋がれた小舟にハリーとロンが乗り、ハーマイオニーとネビルが続いて乗った。
アスカが別の舟に乗ると、続いて双子の女の子達が乗り込み、更に金髪をおさげにした女の子が乗った。

「みんな乗ったか?」

一人でボートに乗ったハグリッドが大声を出した。
全員が乗ったのを確認すると、一つ頷く。

「よーし、では進めぇ!」

ハグリッドの合図でボートは一斉に動き出し、鏡のような湖面を滑るように進んだ。
みんな黙って、聳え立つ巨大な城を見上げていた。
向こう岸の崖に近付くにつれて、城が頭上にのしかかってきた。

「頭、下げぇー!」

ハグリッドの掛け声でみんなが一斉に頭を下げると、ボートは蔦のカーテンを潜り、その陰に隠れてぽっかりと空いている崖の入口へと進んだ。
城の真下と思われる暗いトンネルを潜ると、地下の船着き場に到着した。
全員が岩と小石の上に降り立った。
アスカは双子とおさげの女の子達の手を引いて降りるのをリードした。
女の子達が笑ってありがとう、とお礼を述べると、アスカもにっこりしてどう致しまして、と述べた。

「ホイ、おまえさん! これ、おまえのヒキガエルかい?」

みんなが下船した後、ボートを調べていたハグリッドが声を上げた。

「トレバー!」

ネビルは大喜びで手を差し出した。

(見付かったんだ)

アスカは、喜んでヒキガエルを抱きしめているネビルを見たが、その光景に口を引き攣らせた。

「よし、こっちだ!」

生徒達は、ハグリッドのランプの後に従って、ゴツゴツした岩の路を登り、湿った滑らかな草むらの城影の中に辿り着いた。
石段を登り、巨大な樫の木の扉の前に集まった。

「みんな、いるか? おまえさん、ちゃんとヒキガエルは持っとるな?」

ハグリッドは大きな握り拳を振り上げ、城の扉を3回叩いた。
みんなが緊張で息を呑む中、アスカは目を閉じて深呼吸を一つする。

思い出の詰まったホグワーツの扉が開いた。















To be Continued.