アスカと同寮の友人2人とは犬猿の仲で、3人はいがみ合っていた。
だが、それとアスカは関係ない。
よく文句を言われたり、それが元で口喧嘩になったりしたが、それでも彼は大切な友人だったし、勿論同寮の友人も大切だった。
驚いた事に、ホグワーツで教鞭をとっているとかダンブルドアから聞いた。
それはそれは、とても興味深いではないか!
アスカは友人に会えるのをとても楽しみにしていた。
名乗りをあげられないのが寂しく、悲しいことではあるが…。
だが、もう会えなくなってしまった友人が多い中で、生きてまた会えるというだけで十二分に素晴らしいとアスカは思う。

「それで、卒業したお兄さん達は今は何してるの?」
「チャーリーはルーマニアでドラゴンの研究。ビルはアフリカで何かグリンゴッツの仕事をしてる」

(ドラゴンの研究…って、随分危険な仕事してるんだ)

アスカは感心した。
だがロンは何か別の事を考えていたらしく、神妙な顔で口を開いた。

「グリンゴッツのこと、聞いた? 新聞に記事がベタベタ出てるよ。…誰かが特別警戒の金庫を荒らそうとしたらしいよ」
「グリンゴッツに? 無謀な奴もいるんだ…てか、凄いな。あの銀行に侵入するって相当な手練れだよ。犯人は捕まったの?」
「うん、きっと強力な闇の魔法使いに違いないってパパも言ってた。―――…それが、捕まらなかったんだよ。でも、何にも盗っていかなかったんだ。おかしいだろ?」

確かに、それは変だ。
アスカは顔を怪訝に歪めた。
何か気になる。

(日刊預言者新聞…購読しようかな)

今の情勢も知ることができる。
アスカはホグワーツに着いたら梟便を飛ばそうとチェックを入れた。

「そういえば、君達クィディッチはどこのチームのファン?」

何気なく聞いたロンだったが、ハリーは首を振った。

「僕、どこのチームも知らない」
「ひぇー! じゃあ君は?」

話を振られたアスカだったが、ハリー同様首を振る。

「悪いけど、あたしはクィディッチよりもバスケットボールの方が好きだから」
「バスケットボール?」
「ベル、バスケを知ってるの?」

ロンは知らない言葉に首を捻り、ハリーはアスカの口から出たマグルの球技の名前に驚いた。

「……パパがバスケのプロチームのメンバーだったんだ」
「そ、そうなんだ…」

ハリーとロンは気まずくなって、チラチラと顔を見合わせた。

「クィディッチってどんなことするの?」
「クィディッチは最高に面白いスポーツさ!」

気を取り直したハリーが聞くと、ロンは嬉々としてクィディッチのルールについて説明を始め、その次にはポジションの説明、兄貴達と見に行った有名な試合がどうだったか、お金があればこんな箒を買いたい…等。
ロンがまさにこれからが面白い、と専門的な話に入ろうとしていた時、またコンパートメントの戸が開いた。
ノック無しだ。
今回は、ネビルでもハーマイオニーでもなかった。
男の子が3人入ってきた。
ガッチリとした体格の意地悪そうな子が2人。
そんな彼らを後ろに従えたような青白い、顎の尖ったプラチナブロンドの髪の男の子が1人。
アスカはその男の子から受ける印象をどこかで感じたことがあった気がした。
だが、それが誰だったか、どこでだったか…思い出せない。

「本当かい? このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって、汽車の中じゃその話でもちきりなんだけど…」

気取った話し方で、コンパートメント内を見回し、ハリーを目に止める。

「それじゃ、君なのか?」
「そうだよ」

ハリーが頷いた。
その後、ハリーが男の子の後ろの2人に視線を向けると、「あぁ」と納得して紹介を始めた。

「こいつがクラッブで、こっちがゴイル。そして、僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」
「「ぶッ…!」」

アスカとロンが同時に吹き出した。
ロンは名前がおかしくてたまらず吹き出してしまったみたいだが、アスカは突然の知人の名前に驚いてしまった為だ。

(マルフォイ!? そうか、この子…ルシウス・マルフォイの息子か!)

知人と言っても、数回話をしたことがあるだけの関係なのだが……たが、それでアスカは納得した。
彼…ドラコを誰と似ていると感じていたのかと。
親子ならば、似ていて当前だ。

だが、アスカは納得できても、ドラコは違った。

「僕の名前が変だとでも言うのかい? 君が誰だか聞く必要もないね。パパが言ってたよ…ウィーズリー家は、皆赤毛で、雀斑で、育てられないほどたくさん子供がいるってね!」

ロンの顔が怒りで歪む。
それから続いてドラコの矛先は、アスカに向く。

「それから君も。君はどうせ“穢れた血”なんだろう? 教養のないマグルはこれだから嫌なんだ!」

今度はアスカの顔が歪んだ。
見下した視線を剥がすと、ドラコはハリーを得意そうに見る。

「ポッター君。そのうち魔法族とそうでないのとの違いがわかってくるよ。間違ったのとは付き合わないのが身の為だ……僕が教えてあげよう」

ドラコはハリーに手を差し出して握手を求めたが、ハリーはその手を一瞥して頭を横に振った。

「それなら自分でも出来ると思うよ。どうもご親切様」

ハリーは冷たく言い放った。
ドラコは真っ赤にはならなかったが、青白い頬がピンクになった。

「ポッター君。僕ならもう少し気をつけるがね」

絡み付くような言い方だ。
ドラコはハリーを上から圧をかけるように続ける。

「もう少し礼儀を心得ないと、君の両親と同じ道を辿ることになるぞ。君の両親も、何が自分の身のためになるかを知らなかったようだ。ウィーズリー家やハグリッドやマグルみたいな下等な連中と一緒になると、君も同類になるだろうよ」

ハリーもロンも立ち上がった。
ロンの顔は髪と同じ位赤くなっている。

「もう一遍言ってみろ!!」

ロンががなる。

「へぇ、僕達とやるつもりかい?」

ドラコはせせら笑う。

「今すぐ出て行かないならね」

ハリーはキッパリと言い放った。

「だけどいいのかい? マグルのお友達はそこで震えているようだけど?」
「!、ベル?」

ドラコの言葉に、ハッとしてハリーはアスカを見た。
アスカは静かに俯いていて、握った拳から肩が微かに震えていた。

「ベル、どうしたの? 大丈…「マルフォイ君…だったかな?」……!!っ…」

ハリーの言葉を遮ったアスカの声は、ハリーの知っているアスカの声より数段低く…冷たかった。
ハリーは驚いて声を失う。
ドラコやロンも背筋に走った悪寒に、顔を強張らせる。

「あたしも幾つか言いたい事があるんだけど……いいかな?」
「……あ…ああ、」

ドラコは顔を引き攣らせながらも気丈を振る舞い、頷いた。
アスカはそっと口を開く。

「…さっきから黙って聞いてればいい気になって…。貴方、あたしをマグルマグルと決め付けているけど、あたしはこれでも貴方が大好きな純血なの。覚えていて下さる? 礼儀なら貴方も学んだ方がいいみたいね? 旧家のご子息ともあろう人が、他人様のコンパートメントにノックも無しに入った挙げ句の暴言、虚言…マルフォイの名を穢しているのは…低俗なのは、貴方の方なんじゃないかしら? …それから―――…」

バッと立ち上がり、ドラコの首元に突き付けたアスカの手には、杖が握られていた。

「…ヒッ……!」

ドラコが短く悲鳴を上げた。
慌てて動こうとしたクラッブとゴイルを鋭く睨んで抑制し、アスカは再度口を開いた。

「あたしに喧嘩を売ると…後悔するわよ。坊や…」

地を這うような声で耳元で囁く。
その瞳には殺意がこもっていた。

「!!!ッ」

ドラコは顔を強張らせると、バッと後退り、バタバタと足早に逃げ去った。
その後に、クラッブとゴイルも慌てて続く。

「―――…ふんっ」

アスカはその背中を冷めた瞳で見送った。

「「……………」」

その背後では、立ち上がった状態なまま、ハリーとロンが呆気にとられていた。

暫く沈黙が続いていたが、間もなくハーマイオニーがやって来た。

「どうかしたの?」

立ったままの3人を不思議がってハーマイオニーが聞いた。

「―――…ちょっと邪魔な虫がいたから追い払ってただけよ。でももう大丈夫…ね、二人とも」

アスカがにっこり笑って同意を求めれば、ハリーとロンはコクコクと無言で頷いた。

「…そう? なら良いけど……3人共急いだ方が良いわ。ローブを着て。私、前の方に行って運転手に聞いてきたんだけど、もう間もなく着くって」
「ありがと。じゃあ急いで着替える」

アスカはにこにこと頷いた。
ハーマイオニーは、アスカに笑い返しながら出て行った。

「……じゃ、先にどうぞ?」
「「…う、うん…」」

アスカがコンパートメントから出て行きながらそう言うと、ハリーとロンは戸惑うように頷いた。
アスカは、2人の挙動不審ぶりに首を傾げながら戸を閉めた。

「「―――――…はあ〜…」」

アスカが出ていくと、二人は息を吐きながら脱力したように座席に体を預けた。