驚きに見開かれた瞳が、次の瞬間、キッと反抗的で鋭いものへと変わった。
その変化に、泣き出すだろうと予想していた千里は内心で意外だと驚く。
だが、もっと意外な言葉が美鈴の口から飛び出す。
「やっぱり…やっぱり千里君が傍観主だったのね!?」
「は?」
「へ?」
きょとんと目を丸くさせた千里と雑渡に構わず、美鈴は続ける。
「貴方、フリーの忍者だとか言ってるけど、本当は忍術学園の生徒なんでしょう! そして、貴方も平成からトリップしてきた…ううん、転生したのかも知れないわね……まぁこの際、そんなことはどっちでも構わないわ。――貴方は、突然トリップしてきた私に、友達や仲間がメロメロになっちゃって、仲間外れにされちゃったもんだから、私を恨んで、雑渡さんに協力を頼んでこんなふざけた事をしたのね!? でも、そんなのは逆恨みだわ。私は全く悪くないんだもの! 第一、友情なんて薄っぺらいものにそんなに執着するなんて馬鹿げているわ。そんな理由で何の罪もない可愛い女の子を殺すというの? 酷いわ、あんまりよ。――でも、後悔する事になるわ。私は、これから私の事を大好きな忍術学園の上級生や先生方に助け出されるんだもの!!」
「……………………」
千里は、美鈴の言った事の半分すら理解出来なかった。
それは雑渡も同じようで、目を丸くさせて唖然としている。
二人共、声が出てこなかった。
「ちょっと! 図星さされたからってシカトしないでくれない?」
「…は、はぁ…すいません…?」
「何で疑問形!?」
「いえ、美鈴殿の言った意味が殆ど理解出来なかったもので……」
「はぁあ!?」
何故か怒り心頭の美鈴に、千里は冷めた目を向ける。
ビクリ、と美鈴の肩が揺れた。
だが、気圧されるものかとグッと口を引き結び、口を開く。
「惚けないで! 私の言ってる意味、本当は全部解ってるんでしょう!?」
まるで親の仇を見るような目で千里を睨み付け、決め付けて言う美鈴に、千里は大きな溜め息を吐く。
「……何を勘違いなさってるのか知りませんが、私は嘘は吐いていません」
「君がここにいるのは、私がこの子に仕事として依頼したからであって、この子から頼まれた訳じゃぁないよ」
迷惑そうに千里が言った後、それを裏付けるかのように雑渡が続いて口を開く。
「嘘!」
「だから、嘘じゃないってば」
雑渡もウンザリするように目を細めて答えれば、美鈴はぶんぶんと髪を揺らして首を振る。
『やれやれ……この子の相手をしていると疲れてくるよ。年のせいかね?』
『いえ、私も疲れますから、お年のせいではなく、相手が気狂いだからでしょう。それより、先程私が言っていた話ですが…』
『ああ、もう良いよ。さっきので大体見当がつく』
『手間が省けました』
『―――じゃぁ、そろそろ始末しちゃう?』
『そうしてください。私は帰ります』
『あ、やっぱり聞いたんだ、力の事』
『聞きましたよ。まぁ元から期待などしていませんでしたけど』
矢羽根の応酬の最後、チロリと美鈴を見れば、未だに千里を疑っているようで、睨み付けている。
「――綺麗に処理して下さいね」
よくわからない因縁を付けられ、千里の腹の内はムカムカとしていたが、やはり表情には出さない。
ただ、冷えて暗い光を灯す目に、美鈴の顔は次第に青冷め、体が震え出す。
「誰に言ってるんだい?」
雑渡の言葉にうっすら口角を上げ、千里は現れた時と同じように天井から帰って行こうとしたが、その背に美鈴の声が響く。
「ちょっと待ちなさいよ、逃げるの!?」
「貴女に付き合ってられません。助けが来るのでしょう? なら、またお会いした時に聞きます」
視線も合わさずに言い捨て、千里は天井へと姿を消した。
「卑怯者!!」
美鈴の声は聞こえたが、千里は嘆息すると廃寺を後にした。
「さて、あの子にはあぁ言ったけど、やっぱり気になるんだよね。君の言動」
雑渡は、千里の気配が廃寺から遠ざかると、右目をゆっくりと細めて美鈴を捉える。
「質問に答えてもらうよ」
美鈴は、皆が来るまで時間稼ぎをしなくてはと思い、頷いた。
刻はもうじき忍者のゴールデンタイムとなる。
千里は、未だにムカムカとする腹の奥に苛立ちながらも、あの日、泣いていた顔も名も知らぬ下級生の涙が止まればいい、と思考を巡らすのだった。
(己を省みよ。それでも無罪だと宣えるのか)
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