それはまるで、絵本のような
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ボロボロになり背表紙が見えなくなった赤い本、金で書かれた古書、朝日に照らさないと読めない本、決められた時間にしか絵が映し出されない絵本。どれもこれも闇オークションでも出回らない貴重で、珍奇であり、希少な物ばかりが並んである。
ここは、泥棒組織「アーテル」のアジトの地下。金銀財宝を留めておいたり、観賞用に飾ったりと自由気ままに使われている場所だ。その一箇所に天井まで届く大きな本棚がある。そこに月詠(ツクヨミ)はいた。

「あいっかわらず、ジメジメしてんなぁ」

くるりと声のする方を見るとくろもがいた。興味なさげにそこらの本を一瞥している。

「くろも君、どうしたんです?」
「暇だったから、それにゆっくり過ごすならここが一番だからね」
「何か読んでいきますか?」
「いや、いいや」

そしてまた本を見渡す。月詠も本の整理に戻る。
くろもはフラッと現れてはパッと消えていく。いつものことだ、気ままに自由に思うがままに現れては消えていく。でも、その根底に何かを抱えていることぐらい月詠は理解していた。

「くろも君、なにかあったんです?お腹すいてそうな顔してますけど」
「わぁーお、月詠にはバレるか。お前視力悪い癖にそーゆーのは見抜けんだな」
「伊達に泥棒稼業やってません」
「ははっそりゃ、そーか」

それから、近くにある小さな丸い木の椅子に座り、ぽつりぽつり話し出す。どうやら今回盗みに入った屋敷は過去の出来事を彷彿させるような、くろもにとって行っては行けない場所だったようだ。
フラッと現れて、パッと帰らなかったから何かあると思ったらなにかあった。
過去にあれこれ言うつもりもない、言ったところでどうにもならないし、それに同情はくろもの嫌う行為のひとつだ。

「ま、下準備を怠ったテメーの敗因ってことだね。」
「じゃあ次は大丈夫ですね」
「おう、いつまでも失敗をクヨクヨしてるほど女々しくないんでね」

ニシシッとようやく笑った。それにつられて月詠も微笑む。にっこり、というよりは静かに、それこそ文字通り微かに口角を上げて目を軽く細めて笑った。
ピクンっとくろもは固まった。
そして、ああ、笑ってくれた。そう安堵した。

「…やっぱ、月詠のとこに来たの正解だったわ」
「え?私は何もしてませんけど」
「それがいーの」
「はぁ…」
「なぁ月詠、突然なんだけどお前のおでこにあるヤツって宝石?」

指をさした先には三つの鉱石。暗い室内だから目立つこともないが、これが日の下であれば日光によりキラキラ光ること間違いない。

「へ?ああ…これですか。そうですよ、もちろん取り外す事なんて出来ませ」

言葉の続きをいう前に、目の前にくろもがきた。ジッとそこだけを見ている。そして、ペロッと舌をそこの宝石に這わせた。

「ひゃぁああ!?く、くろも君!?」
「ふぅん、美味しい」
「へぁ!?あの、あの!」
「ちょっとうるさい」

そう言ってまた舌を這わせる。小さな悲鳴が月詠からまた溢れる。だが、くろは一向にやめない。むしろ、その舌は徐々に下がってきた。逃げたくても目の前にいて、両手は月詠の行く手を遮るように、壁になっている本棚がある。逃げれない。

「く、くろも君…!」
「んー?」
「離して、くださ、」

また、言葉を遮られた。
標準より赤いその舌は月詠から離れないで、ついに唇まできた。
そして、今までとは打って変わって優しくキスを落とした。

「月詠、好きだよ」

いつもとは全く雰囲気の違う笑い方で、まるで微笑むように、慈しむように笑ったその顔に月詠は何も言えなくなった。突然額の宝石を舐められたと思ったらキスされて告白されて。ようやく理解出来た時は顔が真っ赤になっていた。

「好き、嘘って思うのは自由だけどさ、俺は本気だよ」

チャラけた雰囲気は残しつつ、いつもは感じられない慎重さが伝わってくる。
本気なんだ、本気の本気で好きになってくれたんだ。
そう思うと月詠は全身に感じていた緊張感がなくなった気がした。そして、自分からくろもの首に手を回し抱きついた。

「つ、月詠?」
「………じゃない」
「へ?なんて言っ、」

今度は月詠からキスを落とした。
真っ赤な顔のオプション付きで、物静かな彼女の精一杯な主張だった。

「嫌いじゃ、ないです」

真っ赤になって、困ったように眉を寄せて月詠は自分なりに好意を主張した。そして、その好意は正しくくろもに伝わった。

「それ、って」
「さ、察してください!」

ドンッとくろもを押して、真っ赤な顔をしたまま月詠は扉に向かっていった。しかし、押されながらも、三本しかないくろもの手は月詠の腕をしっかりと掴んで、その細い体ごと自分に引き寄せた。

「ねぇ聞こえる?」

胸の、ちょうど心臓にあたる部分に月詠はすっぽりと収まった。
トクトクと、規律正しい心拍。いや、それよりは些か早い心音。

「耳の良い月詠だもん、俺の心臓の音聞こえるでしょ?スゲェドキドキしてる」

ギュッと力強くくろもは、まるで大切な物を手放さない子供のように月詠を抱きしめた。

「好き、すきだよ月詠。だからお願い、ちゃんと答え聞かせて」

また、強く抱きしめてくる。
月詠はこの状況を感謝した。どちらの顔も見れないのはつまり、自分の嬉しくて嬉しくて赤い顔を見られずに済んでいるということ。なら、大丈夫。

「好きです、好きですよくろも君」



今度は月詠からも抱きしめた。


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いろは様から恋人記念に頂きました!!くろも君イケメン過ぎて俺がゲシュタルト崩壊しそうです←←

いろは様ありがとう御座います(*´∀`)

皆様!!お持ち帰りは厳禁ですぞ!?

2014.07.19





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