ハローハロー、宇宙に浮かぶ小惑星たちよ




いつだってそうだった。初めて足を踏み入れる場所にたどり着いたって彼はあたしの事を見つけ出してくれた。つまり、あたしはよく迷子になる女の子だったというワケで。そしてそれは悲しい事に現在進行形だ。小さい子が迷子になって泣きわめくのはわかるけど、あたしみたいないい歳した大人がそんな事をしていたらドン引きする他にない。あたしがそういう人を見掛けたら考えるよりも先にそうしている。ドン引きだ。声をかける前にあたしはその場から立ち去るだろう。でも違う。それは1つの心遣いだ。もしかしたら違う事で泣いてるのかもしれない。誰にも言えない悩みがあるのかもしれない。だからあたしは声をかけたりしない。ドン引きはするけど。


「なんでィ、泣いてやがんのか?いい歳した大人が」


背後から姿を現したのは沖田総悟という幼馴染みの男。どうやら彼はあたしとは違うようだ。「ただでさえ不細工なのによけい不細工になるぞ」その言葉からも、表情からもドン引きはしている事は伝わって来たけど。


「なにしにきたの」
「散歩してたらここにたどり着いたんでィ」
「ふーん。あんたにも迷子の才能あるかもね」
「そういうお前はなんで泣いてんだ」
「犬のうんこ踏んだから」
「…」
「嘘に決まってんでしょ!冗談だって普通にわかれよ!」


鼻をつまんで嫌そうな顔をした幼馴染みはあたしと少しの距離を取る。道理で臭うはずだと小さく呟いていたのは聞こえなかった事にしておこう。こいつはいつだってこんな男だった。小さな頃からサディストで、それは大人になるにつれて悪化していくばかり。あの土方さんですら苦戦しているくらい。もちろんあたしも苦戦している。現在進行形で。
しかしあたしもどちらかといえばサディストなので同じように仕返しをしているワケなのだが、やはり実力はこいつの方が上回るのだ。奴はサディスト星からやってきた王子様なのだから。根っからのサディストなのだ。生まれた瞬間からサディスト色に染まってしまった可哀相な男なのだ。しかしそんな彼にも時として優しい心を見せる事がある。それが今だったりする。散歩をしてたらここにたどり着いたとか言うけれど、こんなところ彼だって来るのは初めてだろうに。とある神社の裏にある森の奥深く。普通の散歩道はもっと安全な道だろう。あたしだったらこんな道は通らない。あたしが彼だったらの話だけれど。


「星が綺麗だねー」
「…お前が言うと違和感があって気持ち悪ィな」
「懐かしいね。昔も2人で星を見たよね」


相変わらず毒づく彼の言葉にはとりあえず無視。突っ込んでばかりいてもキリがない。というより、なんだか突っ込みを入れたり言い返したりする気分ではないのだ。今のあたしの心はガラスでできている。少しでも触れられてしまうと壊れてしまうかもしれない。なんて、そんな事を彼に言えば迷わず触ってくるに違いないだろうけど。仕方ない。それが奴なのだから。


「…懐かしい、か」


ぼそりと呟いた声はきっと彼の耳には届いていないはず。だって本当に小さく小さく呟いたのだから。

あたしは懐かしいという言葉があまり好きではない。時間が経っていく事を実感したくないのだ。昔の話をするのもあまり好きじゃない。昔に戻れない事くらい大人のあたしの脳みそは理解している。だから虚しくなる。だからこんなにも悲しくなる。その感情は時々制御する事ができなくなる。だから今、あたしはここにいる。誰も足を踏み入れないであろう場所に。悔しい事に幼馴染みはいとも簡単にここにたどり着いてしまったのだけれど。


「GPSとか付けてんじゃないでしょうね…」
「誰がお前なんかに」


2人して空を見上げた。空にはキラキラとたくさんの星たちが自分が1番だと言わんばかりに輝いている。それを2人して見上げる姿はまるで昔のようで。渇いたはずの頬がまた濡れそうになったのを下唇をきゅっと噛んで押し殺した。そんなところを見られてしまったのか、奴が言う。「不細工だな」その言葉は昔にも聞いた事がある。それが今も同じように同じ人物の口から聞ける事はなんだか嬉しい。だからと言ってあたしはマゾではない。


「そーちゃん」
「おえ。なんでィ。気持ち悪ィな」
「懐かしいでしょ」
「俺も昔みたくお前の事呼んでやろーか?」
「うん。いいね。昔のように呼んで。そしたら昔が今になりそうだから」
「なんだそりゃ。お前何かのウイルスに感染したんじゃねーの?」
「そうだね。あたし病気してんのかもしれない」
「精神か?やられたのはこの頭か?」


懐かしいという言葉が好きじゃない。もしも今のこの状況が懐かしいと思えるようになってしまったらと考えると、やっぱり悲しい。できれば考えたくない。もしも彼があたしの事を見付け出してくれなくなったら。もしも彼の隣りにあたし以外の誰かが呼吸をするようになったら。別にあたしは彼に恋焦がれているわけではない。そして彼も同じだろう。だけどいつも一緒にいて当たり前な奴がいなくなるのはとてつもなく寂しい事だとあたしは思う。




未来のあたし達は一緒に呼吸をしていますか?

つまるところ大人になりたくないって事でして



2011 12/16(再録)

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