夏が通り過ぎて行く。それがどうしようもなく寂しくて、悲しくて、喉の奥がきゅうっと狭くなった。夏の溶けてしまいそうな気候に比べ、秋の気候は涼しくて気持ちイイ。まだ夏に近い場所にある太陽を前に、瞼を閉じれば蘇る夏の思い出。キラキラと輝いて、眩しくて、温かくて、楽しかった日々。悔しくて、悲しくて、どうしようもなく寂しくて。大好きな人の泣き顔が頭に浮かんだ。

ひゅう、っと吹いた風が体を抜けていく。ひんやりとしたその風に夏を感じられず、夏があたし達を置いていこうとしている事を実感させられる。


「ねぇ、あたし達がこうして一緒にお昼ご飯食べられるのって、後何回くらいあるのかな?」


裏庭のベンチにて。木陰の下で弁当を開いて昼食を取っているのだけれど、ふと浮かんだ疑問を投げかけてみれば隣に座る先輩が卵焼きをぱくりと口に入れた。


「さぁな…後100回くらいあるんじゃねぇの?」

「適当な事言わないで下さいよ」

「つーかさぁ、んなもんいちいち数えんのもめんどくさくね?」

「まぁ、そうだけど…」


こうして先輩とお昼を一緒に食べるようになったのはいつだったか。仲良くなって数回。付き合ってからは毎日で。当たり前のこの時間が、いつかは無くなってしまうと思うととてつもなく寂しい気持ちが溢れてしまう。


「先輩、もうすぐ卒業しちゃうじゃないですか」

「もうすぐっつったって、まだ半年以上あるだろ」

「もう半年しかない、じゃなくて?」

「なんだお前。もしかして寂しいのか?」

「…」


寂しい、だなんて。思っても口に出せるワケもなく、いつも胸の奥深くに眠ったまま。遠回しにそれらしき事を口にするものの、いざ寂しいんだろうって聞かれたら、はいそうですよって答える事はできない。寂しいって気持ちを相手に伝える事でその寂しさを消す事はできない。相手に迷惑をかけてしまうだけ。だからこそ、今のようにハシをくわえて先輩のいない方向に視線を逸らして黙る事しかできなくて。

そんなあたしの考えを見抜いているのか、先輩が声を出して小さく笑う。


「お前って、ホンット分かりやすいよな」

「意地悪言うならもうお弁当作ってきませんから」

「そんな事したらオレと弁当食う時間が減るぞー」

「学食があるじゃないですか。売店でパンを買ったりすれば一緒に食べる事ができますよ」

「でもさ、どーぜ食うならオレはお前の作った弁当の方がいいよ」


そう言った先輩は、あたしが作る弁当の中で最も好きだと言ってくれた唐揚げをぱくりと食べた。

先輩のために作った弁当の中身は全部手作りだ。料理は嫌いではなかったけれど、いざ作れと言われたらそれなりに時間も手間もかかるワケで。そんなあたしが毎朝先輩の事を想いながら作るのだ。早起きをして、寝る前に仕込みもして。付き合ってからも尚、あたしは先輩に恋してる。その事実を感じる事がとてつもなく恥ずかしくもあり、幸せだと思う。

今朝の頑張る自分の姿を思い浮かべながら膝の上に置いた弁当を見る。ぼんやりとした視線の先に映るのは絆創膏の巻かれた左手の人差し指。弁当を作り始めた頃はもっと多くの絆創膏を指に巻いてて先輩に笑われたっけ。

ふふっ、と、自然とこぼれた笑み。左手見て笑うあたしをおかしく思ったのか、先輩が箸を置いてこちらを向いた。


「何笑ってんだよ」

「あたし、先輩と過ごす時間が1番好きです」


バカな話で盛り上がったり、昨日見たテレビ番組の話をしたり、お互いの部活での出来事を言い合ったり、これからの自分達を思ったり。会話のない静かな時間も、先輩となら不思議と落ち着けてしまうのだ。できる事ならずっと一緒にいたい。そう思ってしまう程にあたしはこの時間が好き。だけどそれ以上に先輩が好き。大好き。愛してる。


「先輩が卒業したらこういう時間も無くなるワケだし、本当は先輩に卒業してほしくないです」

「それは俺に留年しろって言ってんのか?」

「それは…うん。嬉しいような悲しいような…」

「そこは否定しろよ」

「えへへ」

「休みの日に会って、そんで一緒に飯食えばいいじゃん」

「でも一緒にいる時間、今より回数が減りますよね」

「お前が卒業するまでの1年間を我慢すりゃ毎日イヤってくらいに一緒に飯が食えるだろ」

「毎日?」

「そ、毎日」

「でもそれって…」


あたしは先輩が卒業してすぐに就職するのか大学へ進むのか知らない。多分まだ先輩自身決めてない道だろう。だから先輩の言ってる意味が分からない。毎日一緒にご飯を食べられるって、あたしに同じ大学に進めって言ってるのだろうか。言われなくたってそうするつもりだ。だけどもし先輩が就職したとして、あたしに同じ職につけと言うのだろうか。それはちょっと、厳しくないかな。


「ああ、でも、飯以外も一緒にいられるだろ。昼間は分かんねぇけど朝と夜は確定だな」

「…?言ってる意味がイマイチ理解できな…」


どこか満足げな顔をした先輩は、あたしの言葉を遮るかのようにあたしの頭に手を置いた。自分の方へと優しく引き寄せるその手に、あたしの体はされるがまま。何事だと顔を上げれば目の前には先輩の顔があって、思わずきゅっと目をつぶる。

キスされると思った。先輩はいつも突然キスをしてくるから、そう思うのも仕方のない事だ。だけどあたしの予想は外れて、先輩の顔は真横に移動された。何をするのだろう。抱きしめられたり、キスをしたり、今以上に恥ずかしい事はしてきたはずなのに心臓の動きは安定しない。今にも口から飛び出てしまいそうなくらい緊張している。耳にかかる先輩の息づかいに、あたしはこのまま溶けてしまいそう。


「お前が卒業したらオレとお前で、同じ家に一緒に住もう」


耳から入ってきたその言葉が甘ったるくって、息をするたびくらくらして、これから先の2人の未来がキラキラ光った。







2011 12/15(再録)
t.zinc

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