土をたくさん掘り返した後、次はいつ会えるのかという話をした。「君が会いたいと願えば会えるよ」そうあいつは言っていたけれど、そんなんで本当に会えるのだろうか。だけどいつものように微笑みながらそう言うから、また会えるんだという気持ちの方が大きくなって嬉しくなった。

「あそこに一つだけひまわりが植えられてんのって、田島の言う女が関係してんの?」
「俺が掘った穴にあいつがひまわりを植えたんだよ」
「それにしても、なんで一つだけ?」
「さぁ…いっぱい掘ったのにそのままにしてっからなぁ、あいつ」
「え?別の場所も掘ったの?」
「は?あのひまわりの周りにいっぱい穴あいてんじゃん。埋まっちゃわないようにして歩くのが大変なんだよなぁ」
「………穴?どこに?」

首を傾げる水谷に、一瞬だけ俺の周りに流れる時間がぴたりと止まったように思えた。言われるがままに掘ったたくさんの穴はベンチからでもよく見える。だけど水谷にはそれが見えないようで、だけど俺はこの手で確かに掘ったんだ。一番最初に掘った穴にあいつが手に持ったひまわりを植えて、「やっと植える事ができた」と、それはそれは嬉しそうに目を細めた。

なぜだか分からないけれど、あいつはジョウロを持つ事ができないようで、水やりは俺が担当している。家から近いし、あいつもいるから別に嫌ではない。水やりをするたびにあいつが嬉しそうにするから、やっぱり胸の辺りがくすぐったくて、不思議な感覚に浸かってしまうんだ。

「なぁ花井。あそこにひまわりあるじゃん。周りに穴見える?」
「穴?いや、見えねーけど…」
「ほらな!俺の目はおかしくねーよ!」

こちらに近付いてきた花井を捕まえて水谷がたずねる。どうやら花井にもひまわりの周りにある穴の存在が見えていないようで。俺の目がおかしいのだろうか。

あいつと会ってから不思議な出来事がたくさん起きた。だからこそ感覚が麻痺しているのか、みんなに見えなくて俺には見える穴の存在があまり気にならなかった。

「今日も水やりすんの?」

そう水谷が聞いてきて、あいつがいるであろう場所を見る。生憎そこにあいつの姿は見えなくて、今日は練習が始まる前からあそこにいた分、決められた以上の時間をあそこで過ごしたはずだ。今日はもうあそこに来る事はない。と思う。

だけどそれにどういう意味があるのか、誰とした約束なのか、俺には知るよしもなくて。あいつの肌の白さを思い出して、もしかしたら体が弱いのかもしれないし、何か習い事をしてるのかもしれない。いろんな考えが交差する中、部活終わりのコンビニへ行く事を断って、じいちゃんの畑に置いたままにしておいたジョウロを取りに行く。水を入れて戻ると、穴を埋めてしまわぬよう気を付けながら足を運ぶ。

そこでひまわりの数が増えている事に気が付いた。

畑に行って戻るまでそう時間はかからない。それなのにどうしてひまわりの数が増えたのか。何をどう考えても頭の中に浮かぶのはあいつの顔だった。ひまわりの数を数えてみる。植えられたひまわりの数は全部で五本。

「こんにちは」
「うおっ!?」
「ん?もうこんばんはの時間かな?こんばんはって言うのは何時からだっけ?」

突然現れた声の持ち主に、思わず驚きの声を上げてしまう。びくりと揺れた肩の振動がジョウロの中にある水にも伝わったようで、ぴちゃんと音を立てた。

「ひまわりってどうしてこんなに綺麗なんだろうね?」

花びらを触りながら俺に問いかける。その問いに答えるわけでもなく、俺は俺の疑問をこいつに投げかける。

「コレ、お前が植えたの?」
「うん。そうだよ」
「俺さっきまでここにいてすぐ戻って来たんだけど、あの一瞬で植えるのって無理があるくね?」
「ふふふ…。実は魔法が使えるんだよ、私は」
「え、お前も魔法使いなの?」
「厳密に言えば君の言う魔法使いに自分の願いを叶えてもらおうとしてる一人だよ」
「…ゲンミツ?願い?叶えてもらう?」
「君が使うゲンミツじゃなくて正しい意味での厳密ね」

やっぱりこいつの考えは読めない。何を言ってるのかも、その意味もよく分からない。分からない事がちょっぴり残念に思うけれど、最初の頃と比べてこいつの事をほんのちょっぴり知れた事が嬉しかったりもした。

「毎日水やりご苦労様です」
「おう。あ、そうだ」
「ん?」
「俺さ、明日から合宿が始まるんだ」

だから当分の間水やりができないという事を告げると、どこか寂しげな表情を一瞬見せた後、それが嘘だったかのようにニコリと笑顔を浮かばせ言う。「大丈夫だよ」何がどう大丈夫なのか分からないけど、こいつがそう言うのなら大丈夫なんだろうって、そう思えた。

水やりを終えて他愛のない話をする。いつも突然姿を消す奴だけど、今日は水やりを終えてもそこにいた。俺の隣にいる。それがなんだかくすぐったくて、やっぱり嬉しかった。

「ねぇ、あのさ、」
「何?」
「私、ね…」


「お〜い!悠一郎〜!」

何かを言いかけたその時、俺の名前を呼ぶ聞き覚えのある声が二人の空間に割って入って来た。そちらに顔を向けるとそこにいたのはじいちゃんで、手を振りながら返事をする。もうすぐ晩ご飯だという事を告げるとじいちゃんは畑の方へと消えて行った。

「悪ィ、今のが俺のじいちゃん」

それを教えるためにじいちゃんがいた方向を指差しながらアイツを見る。が、そこにアイツの姿はなくて、変わりにあるのはひまわりだけ。周り一帯をぐるりと見渡してみてもあいつの姿は見つからなくて、どうしていつも突然消えてしまうのだろうか。そう考えながら先程口にしようとしてたあいつの言葉を思い出す。

「私、ね…」あの後、あいつは何を口にしようとしたのだろう。思い出して、思う。その声色は今までに聞いた事のないくらい歯切れが悪くて、なんだか大事な事を聞きそびれたような、そんな気がして。体中に変な不安が駆け巡る。


ボーイミーツガール


取り残された俺は、帰るわけでもなくひまわりに触れて、指についた水滴の中にあいつの顔を思い描いた。


#4 end

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