じり、とあたしを射す陽が憎い。 足元は黒々とした影が落ちている。 みんみん鳴いているセミ、嗚呼、夏。 八月終わり、晩夏。 「なまえ」 いつもの柔らかなアルトボイスがわたしの意識を取り戻した。 待たせてごめんね、と言うと自然とわたしの荷物を受け取り自転車のカゴに入れる。待ち合わせは10時。幸村はいつも待ち合わせの五分前には到着している。今日はきっかり五分前。わたしはというと一秒でも会う時間を長くしたくいつも15分前に着く。 「もう夏も終わるのに暑いね、日焼け止めは大丈夫?」 二人分の荷物のせいでフラつく自転車を悠々と片手で押している。余った手でわたしの手を優しく、でも力強く握る。手汗が、と恥ずかしくなったけど離す気はお互いに、ない。 「それにしてもなまえと旅行だなんて夢みたいだ。」 「旅行って…い、一応合宿でしょ?」 「うん、でも、自由時間はデートできるからね?」 腹黒さを感じさせる笑顔もきゅん、とわたしを締め付ける。あー、もうほんと反則。 ゆるい坂道を上がってバス停の近くで懐かしい面々が遠くから見えた。特に丸井の赤色は目立つ。夏なんだから青色にしてほしい。暑苦しいよ。 自然と手を離すと幸村は右の駐輪場へと向かう。 「おー!なまえ先輩久しぶりっすねー!」 ほんとに何ヶ月ぶりかにあったからちょっとテンションが上がってしまう。やっぱりテニス部のみんなは面白くて好きだ。 「あ、れ?」 「あれ?仁王がいなくないかい?あいつはまた遅刻?」 いつの間にか幸村が横にいて携帯を見ていた。表示された時刻は待ち合わせ時間ぴったりだった。 「まぁ、そのうち来るだろう。弦一郎もそうカリカリするな。」 「約束事を守れんとは…!」 「…っと、仁王からメールだ」 携帯をしまおうとしたらタイミング良く、通知画面が表示される。 「ぶっ…ふ、ははっ、お腹壊したから先行っててだって」 それなら仕方ないな、と大笑いしながらホームに向かった。 いつもなら歩くとき手を握ってくれるのに、今日はない。少しさみしいなと思いつつ自分もホームに向かう。 みんな切符を買って改札を抜けた後で幸村がちら、とこちらを向いた。 どうしたの?と聞くと 「みんないるけど今日はずっとなまえといられるんだね、嬉しくて死にそう。」 そのセリフにあたしが、しにそう。 |