「…案外、あっけなかったね。」 3月2日、あたしたちは立海の高等部を卒業した。あたしは外部だから三年間、仁王は六年間、この立派な校舎で青春の日々を送ってたんだ。 「まだ卒業した実感がなか。」 「わかる」 「まぁ隣じゃし」 卒業式が終わった後、最後のHRをして、それから集合写真を撮った。38名、多くもなく少なくもないこのクラスは、ホントに良い人たちが集まってたと思う。 「あー制服は最後か。」 「そうだね。…私服めんどい。」 「なまえちゃんの私服あんまし見たことなか」 「ダサいから見んな」 黒板の右上にかかっている時計に目をやると短い針が「2」をさしていた。五時からは街の居酒屋で打ち上げがある。一回帰ろうかなとか思ったけど、なんとなく制服を脱ぐのも、教室を出るのも、勿体無い気がして、やめた。 「仁王は、帰んないの?」 「なまえちゃんこそ。」 「めんどいんだもん」 「じゃあ俺もそれ」 何それ、と言えばいつもなら笑って、それから違うこと話して、また笑うんだろう。でも、あたしたちは黙ったまま、窓の向こうを見ていた。 わかっている、仁王だって寂しいんだ。何に対して寂しいか全部はわからないけど、でも半年間一緒にいたから、仁王の気持ちが少しはわかる。 案外、あたしたちは似た者同士かもね。 「じゃあもう少ししたら一緒に行こっか」 「…うん!」 汚れた上履きにさよならを唱えた。 (傷の舐めあい) |