「すまんが教科書見せて。」 急に隣の席の仁王が話しかけてきた。 仁王とは高校三年間一緒のクラスだったが会話をしたことはあまりなかった。わざわざ話すこともなかったし、なんだか種類が違ったし。どっちかっていうと苦手の部類に入る人だと思っていたから。 「いいけど…」 「おお、すまんのぉ。」 がたがたと机を寄せてくる。ぴったりとくっつけないで少し隙間が空いているのは遠慮の表れなのか、 教科書を隙間に入れるためなのか。まぁ別にどちらでもいいが。 次は数学だった。附属大学へ進学するクラスは数学は復習へ入る。あたしの大嫌いな教科だ。特に二次関数いい加減にしろ。移動するな、曲線。しかも今日は二次関数かよ、うげぇ、死ね二次関数。もーやる気も起きない。生理も来て眠いよ。もう寝よう。そうしよう。 「やっぱあたし寝るから教科書使っていーよ。」 教科書をちょっと乱暴に仁王の机に放って睡眠学習にはいる。柔らかい日差しはあたしを一気にあの世に連れて行く。 気持ちいいなーまじ眠い、よー。 爆睡ぶっこき気づいたら数学は終わっていた。 やっべーなんも板書してないよーと思ったけど黒板に書かれているグラフを見たら書く気も一気に失せた。だから曲線移動するなっての。 ふと隣を見ると仁王は丸井の席でなんか落書きをしていた。書き終わったところでちょうど丸井が戻ってきて自分の机を見た瞬間仁王の名前を叫んだ。仁王はくつくつと笑いながら丸井の攻撃(?)をかわしている。笑った顔はきつねみたいで可愛い。ちょっとだけね。よくよく見るとあたしの席にも落書きがされてあった。 ”よだれ垂れそうだったよ” 余計なお世話だっつーの ”借りたお礼に板書しといたからがんばれ。” 机の中に入っているノートを見ると新しいページは男子とは思えない細くて繊細な字によって埋まっている。何で曲線がこう移動するのか、その理由まで細かく書かれていた。 お前はエスパーか。 まぁいいやつだってことはわかった。 |