夢 | ナノ




「そういえばさ、もうすぐで卒業だね。」

後期冬期講習の最終日。最後の授業(あたしが大嫌いな数学だった)が終わって騒がしかった教室は、時間が立つにつれて人もいなくり、静かになっていった。ここに残っているのはあたしと仁王。あとは数人の生徒のみ。


「あー…そうじゃのーまぁ殆どみんな立海に上がるがの。」

「うん」

「校舎もすぐ隣じゃし、赤也は毎日遊びに来るんじゃろうなぁ」

「うん」

「…寂しいの?」

「うん…。」


大学自体は同じと言っても学科が違うと話す機会を失ってしまう。立海の大学は高校と比べものにならないくらい広いから、偶然廊下で会えるか、それか最悪顔も合わせないかもしれない。それに離れる人は本当に離れてしまう。生物の実験の時に隣の席の篠山さんなんて北海道の公立大学に行くって言ってた。

そんなの幾らあたしでも寂しくなるよ。



「なまえちゃんが寂しがるなんて地球が明日爆発するくらいの奇跡じゃな」

「…どういう意味よ」


軽く睨んでやると速攻謝られた。へたれめ。


「そういえばなまえちゃんって幸村と同じ学科やったっけ?」

「うん、まぁね。」

「じゃー寂しさ半減じゃな!」


にっ、と歯をむき出しにして笑う。そうだね、と適当に返してやると急に立ち上がったので何かと思ったら「部活始まってる!」と表情を崩した。

その変わりようがなんだか可笑しくて頬が緩んでしまう。仁王の表情はいつもコロコロ変わるから飽きが来ない。ギャルっちぃ子たちの前ではクール気取ってるけど、あたしとかテニス部の前では完全に素だ。


「なまえちゃんどどどどうしよー!」

「ばっか、早く行きなよ。」

「幸村怖いもん…」


ほら、今度は母親に怒られた幼児みたいな顔してる。コロコロコロコロ変わって楽しい。


「仁王は、建築だっけ?」

「んー?うん。親の影響でのぅ」

「そっか。」



確か建築とあたしの学科は別棟だったはずだ。



「そしたら、なかなか会えなくなるね。」




少し、離れていた机の隙間を埋めるようにくっつけてやると教室に乾いた音が響いた。