朝、学校に行っても頭が痛くて痛くて死にそうだった。 なんとか五時間目まで堪えたけど隣(仁王)がうざくて耐えられなくなって保健室に行くことにした。 一分に一回は大丈夫?なまえちゃん死んじゃわない?死んじゃいやああああ!! とか…。 本当にうざかった…多分あれ以上あそこにいたらあたし本当に死んでたと思う。 「しつれーしまーす。」 開けると中はしん、と静まり返っていた。誰もいない。保険医の机を見ると所用で出かけています。って札が置かれている。そういえば会議があるとか担任が言ってた気がしたな。 まぁいいや、とにかく早く寝なきゃ頭割れそう。 保健室のベッドは糊がきいてぱりぱりしてるし固くてものすごく寝心地が悪いけど若干寝不足なあたしはそんなのお構いなしにすぐに睡魔にのまれ…ん? 「…随分大胆だね」 「ゆ、ゆきむら…!」 あまりにも意識朦朧としてたから気づかなかったけどよくよく見ればカーテン掛かってたし、妙に温かい…! 「何、なまえ襲いに来たの?」 にっこりといつものように微笑む幸村 今一番会いたくなかったけど、知らない人のベッドに飛び込むよりは良いかな…。 それにしてもタイミング悪いなぁ!昨日の今日なんだよ。あーもう心臓が急にばくばく暴れ始めて煩い。幸村がすぐ横にいる。端正な顔立ちがすぐ横にある。緊張でなんだか動けなくなるしうまく言葉もでなくてうーあー言ってたら見かねた幸村は呆れたようにため息をついてそれじゃ俺はそろそろ出ようかなと言って身体を起こした。 「あ、あ、幸村、あの」 ん?と振り返った幸村のふわふわの髪の毛にはちょっとだけ寝癖がついている。 「あ、あの、休みに来たんじゃないの?休んでていいよ?」 あたし出るし、言いかけた途端幸村は少しバツの悪そうな顔をして君は無防備だねと言われた。 「これ以上一緒にベッドにいたらなまえのこと襲っちゃうよ。」 俺も男なんだよと言って靴を履き始める。 こんな綺麗な男の子があたしを女として意識してる。幸村が、わたしを。そう思った瞬間顔が一気に熱を持つのがわかった。 あたしは彼氏なんかできたことないし、周りの男子とは友達として連むから女の子扱いなんかされたことない。(仁王に般若みたいって言われたことあるし。)だからそんなの初めてだからどうしていいのかわからない。 恥ずかしい、嬉しい。 でも同時に昨日のことを思い出して体の中にどろりとした重たいものが流れるのがわかった。 「それじゃ、またね。」 ばいばいと手を軽く振って出ようとした幸村の腕を思いっきり引っ張った。なんでこんなバカなことしたかわかんない。でも嫌だって思ったんだ。幸村が他の女の人と一緒にいるのが。 「ゆ、幸村っ!」 ベッドに倒れ込んだ幸村は目をまんまるくしたけどすぐに状況を読み取っていた。 「なまえ、どけて。」 あくまで冷静に返す幸村に苛立ちを覚えた。なんで?昨日いた彼女に悪いから?あたしを好きって言ったのに?ただ、あたしをからかってたの? 嫌な気持ちがぐるぐると回ってる。こんなのあたしじゃない。焦る。でも一番焦っているのは幸村があたしを本当に好きかどうかわかんないことにだ。 「昨日…いた人誰?」 喉に何かひっかかってうまく声が出なかった。幸村は昨日?とまた目を丸くする。そこには焦っているあたしが映っていて更に焦る。恥ずかしい。 「昨日…公園にいたでしょ」 恥ずかしさに耐えられなくなって目を強くつむった。幸村はといえば公園、公園と反復し、少したってから、あぁいたね。そういえば。と落ち着いて答えた。 「でも…なんで?」 「な、なんでって、」 「隣にいた彼女のことかい?」 「や、」 「そうでしょ?」 ぐっ、と顔を近づけられると何も返せなくなってただ頷くことしかできなかった。そして幸村はでもね、と続く。 「彼女がなんであろうとなまえには関係ないよね。」 「なっ…」 「だってなまえは俺の彼女ではないでしょ」 一瞬、昨日みたいに頭に鈍器でなぐられたような痛みが走った。関係ない。そう言われたらそうだ。でも、だからってそんな言い方ない。 涙が溢れそうになったけど唇を噛んで泣くのを耐えた。 関係ない、そうだ。あたしは幸村の彼女じゃない。 色んな思いが頭の中を駆け巡って、あたしはただ、そこに居着くすしかなかった。 重たい静寂がこの空間を包む。 「…少し、いじめすぎたね」 暫くして、静寂をやぶったのは幸村だった。ふわりと優しくあたしの頬を撫でる。 指先は、見かけに反してザラザラとしていた。あぁ、男の子の指だとぼんやり思った。 「ごめんね、俺も少し焦っていたみたいなんだ。」 「ゆ、」 「なまえ、好きだよ。」 「ゆきむら…」 「なまえ、俺のこと好きかい?」 これが、他の男の子だったらバカみたい、と一蹴りするんだろうな。他の、男の子なら。 でも、 「すき」 いつの間にかあたしはこんなにも幸村に惹かれてる。 |