夢 | ナノ





今日は部活が早く上がるから終わったら遊びに行こうと言われた。
別に用事もないし丁度買いたいものがあったからいいよ、と答えると仁王はくしゅ、と嬉しそうに笑った。

早く終わると言っても6時まではあるらしく、そんな時間だと友達もみんな帰っちゃうしすることもないから仁王の部活を見学することにした。
弦一郎に許可をもらってコート内のベンチに腰をかける。ポケットの中にカイロを入れといて正解だったなぁ、秋風がすっごい寒いよ。
寒さに耐えきれなくて膝をこすり合わせていると弦一郎の後輩があたしを見て挨拶してくる。何人かはあたしのことを知らないみたいで先輩の彼女さんですか?と聞いてきた。
うんそうだよ、あたし弦一郎の愛する彼女だよ、と言うと靴ひもを結び直していた弦一郎がたるんどるっ!と顔を真っ赤にしながら叫んでいた。

それにしたって仁王が見当たらない。
あいつサボってんのかな?でも弦一郎が怒ってないってことは別メニューか。
ぷらぷらと足を揺らしていると影がかかってきた。顔を上げると物腰柔らかそうな人があたしを見てにこにこと微笑みながら立っていた。

「君は、仁王の彼女だったかな?」

柔らかなアルトに軽くウェーブのかかった髪の毛。なんとなく見覚えがある気がするけど思い出せない。

「いや、違いますけど」

「じゃあ弦一郎の彼女かな?」

「絶対違います。」

絶対、を強調して言うと彼はぷっ、と笑いだした。顔も雰囲気も上品で、笑うと余計綺麗に見えた。外の部活にしては色は白い。

「あの、」

「あぁ、俺は幸村精市。部長をしているよ。」

どなたですか、と聞こうとしたら先に答えられた。
え、この人部長?務まるの?

「ふふ、まぁ一応この中で一番強いと思ってるよ?見せてあげようか?」

そう言うやいなや弦一郎と目の前のコートに入ってぱこんぱこんボールを打ち出した。
この人あたしの心の声聞こえるのかな…

10分後、弦一郎はぜいぜいと肩を上下させていたのに幸村は息一つ乱さないでさっきと同じ笑顔でこちらに戻ってきた。

「す、ご…」

なんだこいつやば!女みたいなのにテニスやると男らしい!

「弦一郎あんなに疲れてんのに幸村全然疲れてないじゃん!」

「真田は年だからね、仕方ないよ」

幸村がそう言うと弦一郎は泣き出していろんな人に慰められてた。老けてるの気にしてるのかな。


「真田はどうでもいいとして、俺どうだった?」

え、どうでもいいの?まぁそこは置いとくとして、かっこよかった!と言うと幸村は満足そうに笑った。彼の笑顔はやっぱりきれいでテニスやってるときとのギャップにきゅん、となった。

幸村が見せてくれたテニスはすごくわくわくして楽しい。もっともっとみたくてまた見せてと頼むと、そしたら毎日見せてあげるよと言われた。

「え!?また来てもいいの!?」

幸村は興奮のあまり立ち上がったあたしの手を優しく握って爆弾を一つ。

「俺の彼女になればいいんだよ」

周りのみんなが一斉にラケットを落とす音が聞こえた。