フロア割りを見せた日から十数日。私は一心不乱にデザインを描いていた。そして、そのデザインはもう終盤を迎えている。
残りは私の部屋のみとなってしまった。最後に回した分、迷っていたのだ。


「うーっ、ああ、もうっ!!!」


あまりの進まなさに頭が痛い。突然叫んだ私にビックリしたのだろう。コーヒーを飲んでいた苗木くんの肩がビクッと震えた。
まるで締め切り直前の作家のようだ、と我ながら思った。十分な休憩をとれていないからか、肌は荒れて髪もボサボサ。そろそろストレスも溜まっている。
「どうしたの…?」とビクビクしながら尋ねる苗木くん。それにグターと寝た状態で答えた。


「…私のフロアのデザインが決まらない…」

「…それは、」


少し違うんじゃないかな、という顔をして、苗木くんは首を傾げた。私もそれに賛成だ。


「あ、私は好きな色とかはそんなに無いの。ただ、イメージを出されるとこの色が相性いいかも、って分かるだけで。
だから、そんなに自分へのこだわりが無いって言うか…なんと言うか」


つまり他の人へのイメージからその人のデザインは決めれるが、自分にイメージがわかないために自分のデザインが決まらないのだ。
元々、私は色を決めてから構図を決めていく派だ。色が決まらないのに構図なんてわかないっ


「…じゃあさ、自分の好きなものをイメージするのはどう?」


そう提案する苗木くんを見ると、それはなんでもないような顔をしていた。いや、私にとってはなんでもなくない。そんな考え思い浮かばなかった。なんて天才的なんだ。


「よし。考えてみるよ」


ペンを持ちかえ、スケッチブックに向かう。

さて、私の好きなものといえば?

そう自問して最初に思い浮かんだのは、白い髪のあいつ。自覚すればするほど恥ずかしいな、この感情は。
しかし、他の好きなものを思い浮かべようとしても、そいつが邪魔をしているようで消えてしまう。あぁ、もう…仕方ないッ

そう自分に言い聞かせ、カリカリと手を動かす。
…白を基調とした壁に、私の好きなパステルカラーを取り入れて、装飾はない方がいいかな。シンプルだけど、幸せが込み上げてくるような、癒しの空間。まるで彼と一緒にいるような…


「ちッがうッ」


思わず声に出てしまった。また苗木くんの肩が震えた。ごめん、苗木くん。

…あぁ、もう。私はとっくに彼に毒されていたようだ。

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