皆が話し合う声が聞こえる。私の耳に届きながらも、それはとても遠い気がした。私達を包む空気はシン、としていてざわめき立つ皆とは、違う部屋にいるような感覚に陥った。







「…ーー私は、ここで生きていくよ」






その一言で、その場は静まり返った。凪斗達もざわざわとしていた皆も、全員がぽかんと私の方を見ていた。どうやら、私が言った時のタイミングが、ちょうど皆が黙った時だったらしい。その為、私の声が皆に届いてしまったのだろう。
視線が集まっているのを感じながら、私は確認するように繰り返した。


「私はここで生きていく。未来を創り上げていく。もう決めたっ!!」


改めて言うと、実感が湧いてきた。
皆も同じ気持ちなのだろうか。私が言い終わると同時に、目がキラリと輝いた。「未来を創るのが俺たちだ」「もちろん」とお皆は互いに宣言し合う。

この世界で生きていこう。皆と一緒に未来を創り上げていこう。皆を太陽に導いていこう。

そう人生の抱負を唱えながら、私は口元を手で覆った。口元が緩くて、今にもニヤニヤと品の無い表情をしてしまいそうだったから。


「なまえさん、」


響子さんが騒ぐ皆の中から私に近付いてきた。それに返事を返して、響子さんの次の言葉を待つ。


「…その世界の事を記憶から消す事もできるけど、どうする?」


つまり、この世界で生きていくなら、後ろ髪を引く世界の事は記憶から消そうか。という提案なのだろう。しかし、私は今までの辛い事も引きずっていきたい。仮にも自分のいた世界の事なんだから、苗木くんじゃないけど、引きずっていきたいと思うのが普通ではないか。
そう思った私は、否定を示すために首を横に振った。


「ううん。私には必要ないよ。あっ、でももしかしたら心変わりするかもね。こっちの記憶を消して欲しくなるかも」


最後に冗談を加えると、響子さんは「ひどい冗談ね」と上品に笑った。綺麗だなぁ、とつくづく思う。
響子さんは私の答えを聞くと、皆に紛れて元の場所へと戻って行った。それと入れ違いになるように、今度は凪斗が近寄る。


「やっぱり、なまえさんは強いよ」


そう微笑みながら、凪斗の整った顔が近付いてくる。その後には、響いたリップ音と唇にじんわりと伝わる彼の体温。それは何かと問われれば、「キスでしたー」と真顔で答えられる、その簡単な行為。
しかし私を真っ赤にさせるには十分だった。額ならまだしも、唇とは…こいつ、やるな。そんな茶番を心中で披露し、私の顔は真っ赤に染まっていく。


「…な、…な…ッ」


口をパクパクと金魚のようにしていると、凪斗は人差し指を口元で立て、「静かに」とでも言いた気なポーズをとった。口角は上がっており、若干面白がっているような素振りも見える。




「…ーー大好きだよ」



…ーーああ、やっぱり常夏のこの島は暑い!!!

私はふと顔に集まる熱を常夏のせいにした。

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