ゆっくりと開かれる彼の唇。言葉が紡がれる間のその時間は、ゆっくりと流れていくように感じた。




「ボクは、正直に言うと、なまえさんには戻って欲しくないんだ。
…でも、戻る事でなまえさんが幸せになるなら、それでいいと思ってる。一生に味わえるかどうかの不運だけど、ボクはそれを甘んじて受け入れるよ。

ボクはなまえさんが好きだよ。大好きなんだ。それはここにいる皆よりも、ずっとずっと。
だからこそ、ボクはなまえさんに幸せになって欲しい。世界で一番幸せになって欲しい。
ボクの希望ばっかりで悪いんだけど、ボクがなまえさんの事を想ってる、って事は分かって。

なまえさんが一番幸せだと思う…後悔しない道を選んで欲しいんだ」




ね?だなんて寂しそうに、愛おしそうに微笑む。隣に佇む日向くんも同じような表情で、私たちを眺めていた。その視線は差し詰め、親のようなものだろうか。


「私、は…本当に迷ってる…向こうの家族が心配だし、向こうでは時間が経ってしまっているかもしれない。私は死んだ事になってるかもしれない。向こうに帰れないかもしれない。それでも、やっぱり家族が心配だなぁ、って思う。

でも、こっちも大事なの。ここの皆が大好き。凪斗も本当に大好き。
向こうに帰る事が出来たとしても、決断しないと死んでしまう、って所までいかないと決めれないと思う。それほど、どっちも大事だよ」


言い切ってしまうと、気が楽になった。堂城さんに言えた口か、と思いながら、私は凪斗の目を見た。
それは全て見透かしたような、意志をしっかりと持った目。彼はやりたい、と思う事がもうあるのだろう。だから、ここまで真っ直ぐな目を持つ事が出来るのだ。
その目を見ていると、段々と私もきちんとした意志を持つ事ができてきた。


…ーーこの目を持つ彼に、全てを任せてみたい。そう思った。失敗してもいい。私が導いていくから。お互いに頼り合う。そんな未来を創っていきたい。

そう思えるや否や、私は無意識の内に言葉を紡いでいた。無意識ながらも、ちゃんとした私の意志。


「…私は、」


心配そうに私を見つめる凪斗と日向くんを見つめ返す。私と目が合った途端、2人は驚いたように目を見開いた。…なにか、分かったのだろう。目は口ほどに物を言う、なんてことわざがある位だから。


「私は…ーー」




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