涙が頬を伝っていく。それが嬉し涙なのかは分からない。けれど、心は清々しくて、これが未来へと踏み出すという事なんだな、と分かった。とても気持ちが軽やかだ。
皆は私を慰めるためか、「でも実力は"超高校級"だよ」とか「私たちにとって、みょうじはかけがえの無い存在だ」とか、微笑みながら言ってくれた。


「…でも、なんで今頃そんな大事な事を…?」


そう問うたのは、小泉ちゃん。彼女の目元にはうっすらと涙の跡が見え、もらい泣きしていた事が伺えた。


「…皆の明日へ、未来へ歩き出す姿を見て、私も未来へ歩いて行きたい…って思って。それに、堂城さんにも任されたから。"皆を導いていく"って」


それには私も未来に進まなきゃ。後ろ髪を引かれてたら、未来にも進めない。まだ迷ってる事もあるけど、皆に嘘吐いて生きていくの、罪悪感がすごくて。だから、皆に言おう、って。
そう付け足しながら、堂城さんの最期を思い出していた。

私に話す義理はない、と言っていた彼のそれは虚勢。自分の優しさを隠そうと虚勢を張って、自分に自己暗示をかけていた。でも、最終的には彼の優しさは、別の方向で発揮された。
希望も絶望もなく、普通の世界で生きて欲しい、と記憶を消そうとした。殺せと命令されていたのに、彼はそれをしなかった。それは全て彼の優しさだった。

私はそんな彼の優しさも受け継ぎ、持って歩んでいきたい。皆を救いたい、と願う彼の優しさ、強さ。それを受け継ぎ、未来を創り上げていきたい。
皆も何か感じたのだろうか。私が考え込んでいる中、皆は隣の人と話し合いをしていた。「ここを出たら、」「この島を出た時の為に」と手持ちのものでディベートの様なものを始め出した。


「…なまえさん、」


ふと狛枝くんから声がかかる。それに「はい?」と返事を返すと、皆が話し合いをしている中、失礼ながら何もしていない日向くんと凪斗がそこに立っていた。


「なまえさんは、どっちの世界で生きていきたいのかな?って。それが、まだ迷ってる様に見えたんだ」


流石はポイントゲッターの一人。鋭いものだ。
凪斗の言った通り、私のもう一つの悩みがそれだ。どっちで生きて行けばいいのか、全くもって分からないのだ。
悩む私に、やっぱり…という顔をしたまま、2人は小さく笑った。そんなに私は分かりやすかったのだろうか。


「俺たちは、みょうじの意志を尊重したいと思ってる。だから、」


だから、みょうじがこの世界では生きていけないと感じたら、俺たちはみょうじを元の世界に戻すために頑張るよ。

そう爽やかに笑いながら、日向くんは言った。凪斗もそれに微笑みながら頷く。


「ボクはね、」


小さく、しかしハッキリと耳に届くその声。私の目を覗き込む意志の硬い灰色の瞳。それが私をまた揺さぶった。

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