苗木くん達が帰ってきたその日の夜。こちらの世界に帰ってきてから3回目のレクリエーションが行われていた。
響子さんは私たちに向かって、本部での出来事を話してくれた。堂城さんが言っていた"お方"は処分されることになり、ジャバウォック島にいる私たちは苗木くん達を含め、本部が持つことになったらしい。苗木くんは「本部はキミ達に希望を見出してくれているんだ。だから、安心して。ここから出る時になっても、ボク達が精一杯サポートするよ」と力強い言葉をくれた。

…ーー今日、私は世界の事を打ち明けようと思う。


「…はい、ありがとう。じゃあ次はなまえさんだね」


私の名前が呼ばれる。いつもは感じない緊張感に身を包みながら、私は皆の前に立った。いつもより視線が気になってしまう。背中を駆け巡った寒さにブルッと体を震わせ、口を開く。


「今日、は、お知らせというか…なんと、いうか…」


声が震えてしまい、皆からは不思議そうな心配そうな視線が向けられた。


「…実は、ですね…」


どう切り出そう。どうやって話をしよう。そんな不安が渦巻く。
大丈夫、大丈夫。と自分に言い聞かせ、再度話し始める。


「…今まで、嘘吐いて、ました…っ!!」


その一言に空気が震えた。正しくは皆がざわついた。言い切った衝動か、目から溢れてしまう涙を袖で拭いながら、次の言葉に移ろうと口を開く。
が、それは日向くんの声で遮られてしまった。


「ッそれは、みょうじが、って事か…?」


彼もびっくりしたようで、声が裏返ってしまっていた。それに首を縦に振り、肯定を示す。そこで非難の雨が降りかかる。

…ーーそう思っていたのだが、それは起こらなかった。皆、なんだなんだと不安気に囁きながらも、私の次の言葉を待っていてくれたのだ。
ああ、なんて良い人達なんだ。そう自分の幸福を噛み締めながら続けた。




「…私は…"超高校級の絵師"なんかじゃないんです…それと、違う…違う世界から来たんです…ッ!!!」




…ーー言ってしまった。
そう思いながら、私はギュッと目を瞑った。この場に広がるシン、とした空気。それが肌をピリリと掠めていった。

次には何が待っているのだろう。裏切りだ、と貶されてしまうのだろうか。罵られてしまうのだろうか。泣かしてしまうのだろうか。

…それとも、贅沢に受け入れてくれるのだろうか。

そんな私の葛藤は見事、












「…ーーなんだ。そんな事か」











…外れてしまったのだ。

日向くんのその一言に「え…?」と固まってしまう。日向くん…いや、皆が「なぁんだ」と呆れたように笑っていた。
何故だ何故だ。ぽかーんと皆を見つめていると、凪斗が私に近付いて笑いかけた。


「皆、そんなこと分かってるよ。だいぶ前からね」


だいぶ前…それはいつかと問うと、今度は豚神くんが「フンッ」と嘲笑しながら教えてくれた。


「決まっているだろう。お前が来た時からだ」


そんな前から…ッ!!?
驚愕で何も言えない私に向かって、ソニアちゃんがふんわりと微笑んだ。


「…もう、苗木さん達の世代で"超高校級"という肩書きは終わっているはずなのです。その肩書きがみょうじさんのような若い方に渡されたら、いくら私たちでも分かってしまいますよ」


それに続くかのように、左右田くんがソニアちゃんの隣に立った。


「お前が違う世界から来た、ってのにはビックリだけどな。お前なら、そうだな。納得できるぜ」


次々と投げ掛けられるそのあたたかい言葉。
それが心に染みていくのを感じながら、私は自分が未来へと一歩、歩き出すのが分かった。

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