十数分ほど疲れて寝ていた私は、起きるとすぐにレストランへと向かった。起きた私の頬はうっすらと湿っていて、泣いていた事が分かる。隣にいた苗木くんはもう起きていたが、起こしてしまうだろうから、とその場で待っていてくれた。

レストランは嗚咽や鼻を啜る音、泣き声が木霊していた。堂城さんを中心に、蜜柑ちゃん、日向くん、凪斗が彼に付き添い、他はそれを遠くに見守っていた。
私が近くに行くと、蜜柑ちゃんは泣きながら「ごめんなさい」と呟いた。


「ごめんなさい…わた、私、任されたのに…ッ」

「…蜜柑ちゃんのせいじゃない。もちろん皆のせいでもないよ」


彼女の大きな瞳からは大粒の涙が溢れていて、私まで泣きそうになってしまった。日向くんは蜜柑ちゃんの隣に座り、安心させるように抱き締める。その日向くんも泣きそうな表情だ。


「…大丈夫だ…罪木、落ち着け…っ」


その声は若干震えていた。しかしそれを気付かれまいと、日向くんは強がっている。それは日向くんも、凪斗も…皆同じだった。


「…ーーほら、堂城クンの言っていた事を思い出して」


そこに飛び込んできたのは、苗木くんの優しい声。子どもに言い聞かすような話し方が、私たちをだんだんと落ち着かせてくれた。日向くん達から見ると苗木くんは後輩なんだけど、苗木くん達の方が大人びて見える。それはコロシアイを早くから経験していたからだろうか。


「彼は君たちに未来を見て、未来を創っていって欲しい。そう言ってたよ。
その素晴らしい志を受け継がなきゃ」


日向くんはその言葉に深く頷いた。「未来は創り上げるものだから、な?皆」良い笑顔で言ってのける日向くん。それに皆は「当たり前だろ」「そんな事、もうわかってるよ」と呆れ半分で頷いていた。
彼の"創"という名前は、未来を創るため。そういう意味が込められているのではないだろうか。金○一少年みたいなのも、込められてるんだろうけど。中のバーローと名前のハジメで、究極の死神…みたいな。今言うのは不謹慎だが、ここ笑う所だからね。
私は皆に向かって小さく笑いかけた。


「そうだね、未来を向かなきゃ」


…ーーそれでも、私には忘れられない事がある。皆にも言ってない事。いままで何もなく過ごしていたが、こころの何処かでは必ず思っていた。
それは元の世界のこと。むこうで時間が止まっていたとしても、私はこちらで年をとっていく。
むこうに帰ったら、凪斗達にはもう会えないかもしれない。
でも必ず、どちらかの世界で時間を過ごしていかなければならない。それは私にとって究極の選択だ。どちらが良いなんて、決めれない。向こうの両親も友達も大切だし、こちらの人達も大切だ。あぁ、どうすればいい。
それに、この事は一切皆に言っていない。いつかは言わなければいけない。それが早くなるのか、遅くなるのかだけだ。言わない選択肢もあるのだが、それは私としても心苦しい。皆を騙して生きていくことになるのだから。なら、いつ言えばいい…?

私がじっと黙っていると、苗木くんが気を利かせてくれたのか「今日はもう解散しようっか。色々あったし、皆疲れただろうからね。おやすみ」と皆をコテージへと追いやった。
そして最終的に残ってしまったのは、凪斗と日向くん、未来機関の皆…そしてもう息を引き取った堂城さんだけだった。彼の血が床にべっとりとこべりついてしまっていて、かなりの時間が経っていることを教えてくれた。


「…堂城さんは、強い人だった、ね…」

「俺は、」


私の呟きが耳に届いたのか、日向くんは堂城さんから目を離さずに口を開いた。皆も同じで、堂城さんから目を離そうとしない。


「…みょうじも十分強いと思うぞ」


ああ、なんて暖かくて、こそばゆい言葉なんだ。私は強くなんかないのに。目頭がツン、と熱くなるのを感じた。


「私、コテージに戻るね…」


レストランを抜け、久し振りの自分のコテージに戻る。そこは変わってなくて、埃などは被っていないようだった。おそらく、未来機関の皆が各コテージを掃除してくれていたのだろう。


「最低だなぁ…私って」


ぼふん、とベッドに飛び込みながら、私はそう呟いた。

私は強くなんかない。皆を騙して、罪悪感を感じているはずなのに、のうのうと生きている。強くなんて、無いのだ。


「…いつ言おう」


自分が他の世界から来た、だなんてどう言えばいい。皆、目の色を変えてしまうかもしれない。なぜ騙した、裏切りだ。そう言われても仕方が無い。

…どれほどの時間が経ったのか分からない。私は無心に天井を見つめていた。どうすればいいんだ。
そもそも、


「…強さって…何…」


ふわふわと漂っていた意識が、段々とどこかへ沈んでいく感覚。もう、眠たい。それを意識すると、本当に眠くなってきた。私は波の音を暗闇で感じながら、沈んでいく意識に身を任せた。

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