*グロい表現があります。苦手な方は戻るを押して、この話を飛ばす事をオススメします。
そう言って、その方は私に紙とナイフを渡されました。
…ーーそれがあれです。奪われましたがね。
元々、あんなもの使おうとは思いませんでしたが。
殺した後、私はこう言えと言われました。
『"絶望"が殺した。前回と同じだ。"絶望"は危険だ。処分しなければならない』
今思えばこんな作戦、穴もたくさん空いたぶっつけ本番の作戦だったんですよね。若干、騙された気もしますが、私は絶望が憎い。
絶望が希望を憎む様に、希望の象徴とも言われる私たちが、絶望を憎むはそれもまた同じなのです。
ですが、私は希望も憎い。いえ、憎いのではありませんね…」
そこで堂城さんは話を区切った。吹っ切れたような、爽やかな表情だった。
「話すとすっきりするでしょう?」
「どうです?」若干挑発的に言うと、彼は「負けましたよ…」と首を横に振った。彼からはさっきまで向けられていた、敵意ようなものは感じられなくなっていた。
「…私は、あなた達を救いたかった」
彼の口から紡がれる意外な言葉。それを聞いた皆は口々に「はぁ!?何言ってんだよッ!!!」「どの口が言ってる?」「ふざけるのも良い加減にしろ!!」と罵声を浴びさせた。
その反応が分かっていたのか、堂城さんは気にせずに話し始める。
「"超高校級"…"希望の象徴"…そんな肩書きから、あなた達を救いたかった。"絶望"でも、"希望"でもない。
ただの人として、世界を見て欲しかった。
普通の年相応のあなた達が和気藹々と語る姿を見て、そう思いました。作戦も私欲を含むようになってしまいました。
あなた達に毒されてしまったのでしょうね。
だから、記憶を消すんです。自分が"希望"だという事も、"絶望"だという事も忘れて。何もかも忘れて、世界を見て欲しかったから。
…そんな世界も、いまや絶望ですけどね。悲しい事です」
それは"希望"として世界を生きてきた、彼の本心だった。心の声だった。
待遇は良いが、物凄い重圧に襲われるだろうその肩書き。重圧の中からは見えない世界を、彼は見せたかったのではないだろうか。
堂城さんは小さく笑った。もう、十分だ。そう言っているような気がした。
周りの皆も堂城さんの声が、心に届いたようだった。堂城さんへと向ける敵意、殺意は綺麗になくなった気がした。
「あなた達に、私達のような狭い世界を見て欲しくない、空を見て欲しいと思ったのですが…大丈夫のようですね」
「え?」
聞き返すと、堂城さんはレストランから見える常夏の空を眺めた。それに釣られて一緒に見てしまう。
「彼らにとって、あなたはひまわりのような存在なのでしょうね。太陽を、空を一心に見つめるその姿。それが周りの花も空を見上げる力になる。
あなたは、彼らを導いていける力がある。肩書きなんかにとらわれず、彼ら自身を見て、彼らに広い世界を見せてあげることができる。
あなたがいれば、彼らは世界を見れます。そう感じます」
言ってる意味は微妙に分からなかった。しかし堂城さんは私に"皆を導け"と言っているような気がした。それに頷く。
自分の力を持って、全力で皆を導いてやる。運命にしたがってやる。
私の意気込みを感じたのか、堂城さんは満足そうに笑って、芋虫の状態から半身を起こした。
「…ーーそれが、私…先輩の望みですよ」
幸せそうな笑顔を浮かべる堂城さん。私たちもそれに釣られて微笑んだ、その時。
…ーーパンッッ!!!!!
その場に響く乾いた音。それは俗にいう破裂というモノで。倒れゆく堂城さんの姿を眺めながら、私はその状況を飲み込めずにいた。
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