…ーー1月1日。

絶望も希望も馬鹿騒ぎしているだろう。そして「祝ってる自分、絶望的…!!」とか言っているんだろう。そんなめでたい日が俺にとっては、もっとめでたい日だ。


「日向クン、誕生日オメデトウ!!」
「おめでとーっ!!!」


そう。誕生日。年に一度の大切な日だ。

また一つ年をとるのか、と女々しくため息を吐く。年をとるのも気が引けるが、それよりも皆と一緒にいられる時間も、あと少しなのだと考えると、胸が痛んだ。
もっと皆と一緒にいたい。もっと、みょうじと一緒に…ーー



目が覚めて周りを見回せば、ほとんど皆撃沈していた。
レストランで正月、兼俺の誕生日パーティを開いてくれたのだが、正直はしゃぎ過ぎた。
もう20歳もみょうじ以外は超えているから、と皆して酒を飲んだ。案の定、飲み過ぎた奴らは泥酔して今や夢の中だ。
俺は少し飲んだだけで、頭が回らず、そのまま夢の世界へ飛び込んでしまった。そして今起きた。


「ゲッ…十神もダウンかよ…」


どんだけ飲んだんだ。かの御曹司様2人共が撃沈している。霧切や苗木も撃沈。全員が撃沈だ。
会場を見回すと、起きている人は誰一人いなかった。俺の隣でグダーッと伸びているみょうじ以外は。


「今何時だ?」

「11時52分」


彼女の片手にはオレンジジュースの缶があり、彼女の動きと一緒にカチャンと音がした。酒の代わりに飲まされていたのだろう。未成年はダメだからな。


「俺、何時間くらい寝てたんだ?」

「んー…2時間くらいだよ」

「なっが…」


相当寝ていたらしい。机にはよだれが乾燥して、カピカピになって跡がついている。あとで拭かなきゃいけない。
オレンジジュースを片手にみょうじは、むぅっと不機嫌そうに頬を膨らませた。若干ノリがアルコール入っているような感じだ。


「日向くん、日向くん、」

「なんだ?」


ガンガンする頭にイラつきながら、呼びかける声に一言だけ返す。それを聞いたみょうじは、小さく息を吸い込んだ。


「ごめんね」


「は?」突然の謝罪に間抜けな声を発してしまう。みょうじを見ても、その表情は本気のようで、その謝罪にも意味があるようだ。


「どうしたんだ?急に」

「あの、」


率直に疑問を口に出す。
このまま謝られただけでは、俺が腑に落ちない。まして、好きだったヤツに急に謝られると、また振られたような錯覚に陥ってしまう。そう思いながらも、俺はみょうじの次の言葉を待った。


「えっと、実は、

プレゼント、用意してなくて…

…だから、ごめんなさい」


ああ、なんだ。安心できたからか、一気に息が外へと出ていく。「そんな事いいって」安心させるように笑ってやると、みょうじは不満気に首を横に振った。


「それじゃダメ。凪斗もプレゼントあげてたのに、私からは無いなんてダメだよ!」


凪斗。その言葉には慣れたはずなのに、拒絶したがっている俺がいた。まだ完全には吹っ切れていないのかもしれない。そうならば、俺はなんて汚いんだろうか。
俺はみょうじの主張を聞きながら、そんな事を考えていた。ああ、汚い。なんで、狛枝なんだ。


「だから日向くんが欲しいものあげるよ。出来る限りね」


お前。そう口走らなかった俺は偉いと思う。俺は今でも、みょうじが好きだ。それは譲れないと分かっている。だからこそ、の気持ちなのだろう。

みょうじが俺を好きになれば良いのに。俺に気持ちを向けて欲しい。俺だけに向けて欲しい。俺だけを見て欲しい。俺だけが見ていたい。

ああ、こんな気持ちを捨ててしまいたい。汚い汚い…!!
そんな俺が分かったのか、みょうじは小さく笑った。


「じゃあ後5分だけ、日向くんにあげる」


その5分があれば何が出来るのか。そんな事を考えた俺は、相当イカれているらしい。


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