凪斗が落ち着くまで待って、私たちは皆に捕まえられたという堂城さんの元へ行くことになった。ちなみに凪斗は30分経ってようやく落ち着いた。子どもか、と言いたくなるけど、それほど心配してくれていたのだろう。嬉しい限りだ。

堂城さんはレストランで待機しているらしく、私たちはそこに向かった。
そこに辿り着いた私は、絶句。それだった。
お縄にかけ…いや、縄で縛られた彼は多少の傷を体のあちこちに負いながら、床に芋虫のように転がっていたのだ。しかも皆に囲まれた状態で。
さすがに記憶を消されていたから、と言っても同情してしまう。同情された本人は、私を憎々しげに睨みつけ、「あなたのせいだ…ッ」と声を荒げていた。
それがまた皆の癇に障ったのか、彼へのリンチが始まる。


「…ーース、ストップ!!」


制止の声を上げた私に、皆からあり得ないとでも言いた気な視線が刺さる。


「…フルボッコにするのはいいけど、一応堂城さんの主張を聞いてあげようよ」

「あなたなんかに話す義理は…ッ!!」

「…ーー堂城さん、」


せっかく聞いてあげようと思っていたのに。
彼を呼ぶ私の声には若干の呆れが含まれていて、その場を切り裂くような私の冷たい声に、さすがの皆も肩を震わせた。


「私は堂城さんの為を思って言っているんです。お願いですから、話してください」


いいですね。諭すように言うと、彼は諦めたように溜息を吐いた。


「…ちゃんと聞きなさいよ。これを話せば私は生きていけるのか分からないんですから」


そんな不吉な言葉を残して、彼は仕方なさげに主張が始まる。諭すような話し方には、初めて彼と会った時のような、彼本心のような優しさがあった。


「…まず、私は未来機関の上から命令を受けました。
その方は最近、絶望に対して前向きになりつつある未来機関に不満を覚えるーーつまり今の未来機関とは逆の、"絶望を抹消"という考え方を持つ方でした。


…ーーええ。前に言った『疑わしきは罰せず』というのは嘘です。あなたの様な異端分子は処分しなければいけない、と考えていますから。どんな方法でも。


そんな私はその方を尊敬していました。だから、彼の無茶苦茶で穴が開いた作戦に…盲目的に行動していたのでしょうね。

彼の主張、作戦はこうです。


『最近現れたと言う"みょうじなまえ"は絶望に間違いない。だから、そのような奴は処分せねばならない。
そして私は考えた。その"みょうじなまえ"と共にジャバウォック島の絶望の残党共を処分する方法をな。
お前は絶望が憎かっただろう?ならば、この作戦には参加すべきだ。良いな?

…ーーよし。良い返事だ。

では話してやろう。その作戦は、


"まずプログラムを控えたジャバウォック島に乗り込む。その方法は何でも構わん。信じさせるも、無理矢理侵入するも何でも良い。

そして、プログラムを改変するのだ。その方法はこの紙に書いてある。良いな?
その方法でまずはみょうじなまえの記憶を消せ。そいつには何かあるかもしれん。
苗木達はノロマだからな。特に行動しなかった場合は、次々と記憶を消していけ。

ここからが問題だ。二つの分岐が現れる。
一つは強制シャットダウンだ。その場合は"絶望だから"という理由をこじつける事ができる。
一つは強制シャットダウンせずに記憶が無くなった状態だ。その場合はチャンスだ。記憶を無くした奴ら全員、






…ーー殺せ。"






良いな?では任せたぞ』

それが彼の"作戦"でした。

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